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第21話
最初は生意気な惇生を振り向かせてみたい、それだけだった。そして、今までのように、自分に夢中にさせる。
だが、惇生を知るごとに気持ちが変わる。
惇生の笑顔。屈託のない性格。
今まで出会ったことのないタイプだという考えには変わりない。
惇生を自宅まで送り、運転する車内で思案を巡らせた。
惇生に本気になってはいけない...。
ドリンクホルダーに置いていたスマホが鳴った。
「もしもし?」
「あっ、大悟?良かったあ、連絡取れなかったら、どうしようかと思っちゃった」
イヤフォンで電話を取ると、聖だった。
「今から行っていいか?」
ベッドの下に投げ出された上着のポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
「タバコやめたんじゃなかった?」
背後で素肌のまま、シーツの上の聖が声を掛けたが、大悟は答えず、煙を燻らす。
「アタシにも一本、ちょうだい」
ベッドの上のタバコに聖が手をかけた。
「あの子に本気になっちゃダメよ」
「...あの子?」
「大学生の生真面目そうな、処女かしら」
「...会ったのか?惇生に」
「惇生、て言うの?バーで会ったのよ。ナンパされて、ついて行きそうな雰囲気だったから、ちょっと助けただけよ」
「...そうか、ありがとな」
「アタシ達みたいに、あの子、割り切り付けなそうだから...言っている意味わかるわよね?」
静かに、大悟は煙を吐き出した。
「割り切り付けれなそうなのは俺の方だよ」
今までにない真剣な大悟の眼差しを聖は見上げた。
大悟を一番、わかっているのは自分だと、聖は惇生への警戒心を強めた。
大悟は自分のもの。絶対、本気にさせる訳にいかないと。
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