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雫さまが意識を失われて、慌てた私は校医のオースティン先生の部屋へ駆け込んだ。
毛布でぐるぐる巻きになった雫さまを見てひとしきり笑った後、ゆっくり息をついた。
「この子に親身になってくれる存在が付いてくれて良かったよ。
こうして血相を変えて走ってきたという事は、致し方無く就いた訳ではないのだろう?」
「……………」
「此の学校は貴族の子弟の為にある。
無駄に高いプライドと虚栄心まみれの子供達の中で、必死で生きてきた子なんだ。
本来なら母国に帰してやるのが一番なのだろうけれど、叔父御の公爵が承諾してくれなくてね……」
「はい。
父も何度か進言したようですが、一切聞く耳を持たないとのこと。
ご家族が見つかれば、留めおかれる理由も無くなるのですが……」
「その気むずかしい公爵の息子は、更に気難しいからね。
謂れのない中傷や苛めの対象になっている。
教室の中には執事が足を踏み入れる事は出来ないから、せめて寮の部屋だけでもホッと息をつく時間を作ってやってほしい。
本人が気づかない所で、心は意外に軋んでいるのだから」
「………………」
正直 驚いた。
雫さまを見ていた方がいたのだと。
言葉にしなくても、私は気配で感じていたのだ。
公爵に連なるとはいえ、遥か遠い国の一般的家庭で育った雫さまへの蔑みや嘲りを。
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