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第1話
「そこはそんな暗い赤じゃない。もっと斬新で鮮やかな……そうだ、お前の血を使おう。」
「っ?!それは……いくらなんでも。」
「つべこべ言わずにそのナイフで腕を切れ!」
「…………はい。」
ザクり。
もう、痛みなんて感じない。
僕は自身の腕から流れる鮮やかな赤をパレットに注いだ。
滴るそれが、隣の青に混じってしまわないように。
赤は作れるけれど、作家様に認めていただいたこの青は
これ以上何かを混ぜることは許されないから。
ずっとこうして生きてきた。
これからもずっと、そうして生きていくものだと思っていた。
僕は作家様の絵を描かされるためだけに作られたんだ。
作家様の望む通り身を削って、
誠心誠意努めなければならない。
……ここ、さっきの色の方がしっくり来る気がするけど。
まあ、僕のような絵描きロボットが何を言ったところで無駄だ。
次の色を作ろうと、そこかしこに散らかる絵の具チューブの中から探した。
あぁもう。
ついてないな、切らしてる。
「……恐れ入ります、作家様。」
「あ゛ぁ?」
「この12番の色を切らしてしまいましたので、買いに行ってきてもよろしいでしょうか。」
作家様は少し考える様子を見せると、渋々といった表情で僕にいくつかの紙幣を突きつけた。
「これで買って来い。…ついでに残り少なそうなものもだ。締切が近いんだ。いいな!」
「……かしこまりました。」
外行きの洋服も、肩から提げるバッグも何も持たせては貰えない。
僕は絵の具で汚れたままの姿で、紙幣だけを握り締めて作業部屋を出た。
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