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第45話 【2年前】(22)
血反吐を吐いて動かなくなったサキを前に、レンは震えが止まらなかった。
自分のせいだ。考えなくサキに気持ちを傾けた自分が、この事態を引き起こした。
タカトオとサキの会話を聞くかぎり、この2人は元々宿敵同士だった。それでも、自分がいなければサキはもう少し慎重に動いた気がする。
そう考え、レンは唇を噛んだ。オレはバカだ。一番バカなのはオレだ。
横たわるサキの指先は動かない。
自分の横にいたタケは、タカトオに襟首を掴まれて引きずられていった。最後に、タケは必死でレンを見ていた。すまなそうな顔だった。トンネルの中でのやり取りを思い出し、レンもまた、謝りたい気分でタケを見つめた。
すべてのやり取りが宙ぶらりんなまま、タケは蹴り飛ばされるようにドアの向こうに消えた。見張りに引き渡されたタケは、南に戻り、ペンダントを持ってくるようエトウと交渉しなければならない。
正直、エトウがそれに応じるかどうかはレンにはわからなかった。東京の南半分にいる者たち全員を危険にさらすことになる。その重圧というものをレンは想像した。タカトオとサキの会話を思い出す。
すべての者を守るために、サキは自分の感情を押し殺し、あの闇の奥で本を読んでいたのだ。ステンレスの冷たい感触、少しカビくさい紙の匂い。静かな──侵入者を拒む密やかな迷宮。
中央線南の真の王は、知恵を牙城としていた。
だからこそ、サキは用心深く行動していた。なぜこの肝心な時に、サキはいとも簡単に境界線を越えてしまったのか。なぜ。
「おい」
乱暴に声をかけられ、レンはのろのろと顔を上げた。久しぶりに見る父親の顔は、確かに老けていた。そもそも、初めて父親を見た時から、レンはその男が父親だという実感があまりない。レンが生まれたのはタカトオが38歳の時で、終戦後、14歳で初めて顔を合わせた時、向こうは既に50歳を越えていた。
「ついてこい」
老年に差しかかってなお美しい顔がニヤリと笑った。サキが心配だが、今、この状況でサキを守れるのは自分しかいない。
後ろ手に手錠をかけられたまま、レンは立ち上がった。動かないサキに目もくれず、タカトオは部屋を出ていく。サキを見ながら、レンはタカトオについて部屋を出た。
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