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「魚人」
海の上で対峙した『そいつ』は、銀色に光る鱗を持ち、魚のような目をした巨大な魚人のようだった。
高さおよそ50メートルはあるかという巨大怪獣がこの星に突然現れるようになってから随分経つ。
この宇宙人やら怪獣やら化け物やら世界の終わりやら色んなあだ名のついた『こいつら』に対抗するために、人類は反撃の兵器を発明した。
巨人型戦闘機『クローラ』ーー早い話が巨大ロボットだ。クローラだけが、唯一『こいつら』の息の根を止めることのできる希望の光だった。
クローラに乗った俺は、対峙した魚人の殺気に息を呑んだ。
魚人は耳障りな鳴き声を上げてこちらへ向かってくる。
相手の出方を見る作戦だったが、俺の機体の後ろからもう一体、真っ赤なクローラが飛び出した。
「おい、リアン!」
俺はとっさに、駆け出した相棒の名前を叫んだ。しかし彼の動きは止まらず、敵へと突進した。
仕方なく俺もその後に続く。
「リアン、今すぐ止まれ! ぶっ殺すぞ!」
俺が叫ぶと、拒絶するように通信が切られ、思わず舌打ちした。
真っ赤なクローラは槍を構えるとまっすぐ魚人の顔面に突き出した。魚人はそれを避けると大きな口を開け、サメのような鋭い牙で相棒に噛みつこうとした。しかし、彼は避けようとしなかった。
「死にてぇのか!」
俺は叫びながら、相棒の前に割り込むとサーベルでその牙を防いだ。
通信が切られていても、文句を言わずにはいられない。
しかし何の加工もされていないサーベルでは、その牙によってあっさりと粉々に砕かられた。
「クソがッ」
武器を失った俺はその口に片腕を突っ込んだ。強制的に詰め込まれた金属の塊に魚人は噛み砕こうと、うなる。バチバチと音がして、放電した光がコックピットを時折照らす。
「うまいのかよ、俺の腕は」
見慣れたクローラの腕が魚人の口の中でガラクタになっていく様を見ていると笑えてくる。
魚人は至近距離から光線を繰り出すと、俺のクローラの足がいとも簡単に溶けた。
コックピットのディスプレイが機体の欠損を知らせようと真っ赤に光る。脱出しろという無機質なアナウンスが響いた。
「ヤだね」
俺は子供じみた拒絶をした。俺の後ろには相棒がいる。『こいつら』相手に一度も撤退も敗退もした事がない無敵の相棒。俺が時間を稼いでいる間にきっと彼が魚人を倒すために動いているだろう。今、この機体を無人にする訳にはいかない。
次の瞬間、赤い機体が魚人の顔を蹴り上げた。
惚れ惚れするほど美しい真っ赤なクローラは、水飛沫と共に現れると俺の視線を釘付けにした。
「リアン……」
リアンが蹴り上げた衝撃で、魚人が噛んでいた俺のクローラの腕は食いちぎられ、海面に叩きつけられた。
リアンの操る機体は綺麗な弧を描き、縦に半回転すると空中から槍を魚人に向けて突き立てた。槍は、魚人の大きく開いた口から入り、喉奥を正確に突いた。その一連の動作があまりに綺麗で起き上がるのも忘れてしまった。
槍で口内から後頭部を貫かれた魚人は悲鳴も上げず、血飛沫を撒き散らしながら、海へ沈んだ。
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