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「寂しい」

俺の機体も海に沈んでいき、三面の画面が水面に滲んでいくのをぼんやりと眺めていた。すると大きな手の影がコクピットを覆った。海に沈みかけた俺のクローラは、相棒の手によって抱き上げられた。お姫様抱っこされるなんて情けない。 「なんで、さっさと脱出しないんだよ?」 通信を復帰させたリアンが呆れたような声を出した。 「作戦無視で突っ込んだやつに言われたくねぇ」 棘のある言葉なのに、リアンの笑い声が聞こえた。 「シャドが元気そうで良かった」 「少しは反省しろよ!」 俺は跳ね上がった鼓動ををごまかすようにリアンに突っかかった。 このコックピットにカメラがついてなくて良かった。 俺の顔は真っ赤になっているだろう。 俺はこの男に恋をしている。 リアンは俺が入隊する前から優秀なパイロットとして有名だった。最初はその型破りな戦闘技巧に憧れていた。 それは『お前ってさ、戦闘中、俺に見惚れてるだろ』と、本人から指摘されるほどだ。 だが、今はそれだけではないようだ。戦い終わったあとの方が、心をかき乱される事が多い。 「あーあ、これで最後の戦いかなぁ」 リアンは名残惜しそうな声を上げた。クローラのパイロットは十代に限られる。理由は様々だが、クローラは早ければ十八歳で、遅くとも二十歳になるころには、本当に操作出来なくなる不思議な機体だった。その為、パイロットは十八才の誕生日に引退するのだ。 リアンと俺は十七才。二人とももうすぐ十八才になる。リアンは来週、誕生日を迎える。俺も相棒と同時に引退することが決まっていた。 あと一週間でこのコンビは解散だ。 (……寂しい) そう言いかけて、俺は口をつぐんだ。 「良かったな。生きて除隊出来そうだ」 戦いの中で死傷者は出てくる。そんな中で、生きて任務を全うできることは幸せなことだ。まるで自分に言い聞かせるように笑ってみたが、当のリアンからの返事はなかった。

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