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第3話

「ごめんなー、今日は。あれからしっかり寝たし、すっかり元気になったからなっ!」 「そ……そっか。それなら良かった」  そしてその日の帰り道。俺のことが心配だからといって、澄人が家まで送ってくれることになった。  澄人のこういうところ、すごく好きだ。脚も長い澄人だ、本当ならもっと歩幅が大きくて、俺なんかよりずっと速く歩けるはずなのに、こうして歩調を合わせてくれるところとか、優しくて好き。  ——そうだよ……いい彼氏だもん。満足すべきなんだ。エッチなことをしてもらえないことくらい、何だっていうんだ。俺は欲張りなんだよな……きっと。  寂しさを拗らせて出会い系に手を出そうとした時期もあったけど、やめておいてよかった。まさかこんなに素敵な恋人ができるなんて思ってもみなかったから。  しかも、身体目当てとかじゃなく、純粋に俺を大事にしてくれている。俺なんかとは比べ物にならないほどのハイスペックなイケメンなのに……。  きゅんきゅんしながら、隣を歩く澄人を見上げる。夕日のせいだろうか、澄人の頬がいつになく赤く染まっているように見えた。つんと高い鼻筋やふっくらめの下唇の横顔はあまりにも綺麗に整っていて、見ているだけでうっとりしてしまう。 「……あのさ、光哉」 「ん? 何ー?」 「いや、あの……。ちょっと話したいことがあるんだけど、家、上がっても大丈夫?」 「えっ……? は、話したいこと……?」  いつになく神妙な顔つきで、澄人がこっちを見た。……なんだか嫌な予感がして、背筋がスーッと冷たくなる。 「は、は、は、話って? 今ここじゃダメなわけ?」 「ここじゃ、ちょっと……」 「そ、そうなんだ。……う、うん、いいよ。母さん、今日はばあちゃんとこ寄ってから帰る日で、遅いし……」  俺が冷や汗をかきながらそう言うと、澄人はうっすらぎこちない笑みを浮かべた。その微妙な表情に、俺の困惑と不安は高まるばかりだ。……ひょっとして、別れ話でもされてしまうのだろうか……!?  ——い、いやだ……澄人と別れるなんて無理。死んじゃう。……どうしよ、いったいどうしたら……。  不安のあまり全身から血の気が引いている。だがここでぶっ倒れるわけにもいかず、のろのろと重い足取りで歩いているうち、気付けば家に着いてしまった。  ——何がいけなかったんだろう……こんなにしっかりスケベ心を我慢してたのに……。まさか、態度に出てたのかな……夢小説書くことで気を紛らわせてたつもりだったけど全然ダメで、いやらしい目で澄人のこと見たり、無意識のうちにセクハラとかしてたのかな……!?  自信を持って、「そんなことはしていない」と言い切れない自分が憎い……。部屋に入った澄人も、心なしか緊張を匂わせる固い顔だ。  ベッドに腰を下ろした澄人の隣にブルブル震えながら浅く座って、止まりそうになる心臓を励ますように胸元を拳でドンドン叩き……そして、深呼吸をした。 「で……あの。お、お話というのは……」 「……うん。あ、あのさ」  ぎゅ、ぎゅ……と澄人は拳をにぎにぎしながら、慎重に言葉を選んでいる様子だ。……俺はごくりと固唾を飲み、その瞬間の衝撃に備えようとした—— 「光哉、さ。……へ、変な小説……書いてない?」 「………………………………え?」  ——…………しょう、せつ…………だと?  ぶわ、と身体中から変な汗がほとばしる。 「俺、朝さ、一旦は教室戻りかけたんだけど、やっぱりちょっと心配で、もう一回保健室戻ったんだよ。……そしたら、その……スマホがつきっぱなしになってて」 「スマホ……」  ——そ、そういえば……スマホで夢小説読みながら、寝落ちした……かも……。  思い当たる節しかない。  だらだらだらだらと滝のような汗が流れ出し、なんだか寒くなってきた。すると、澄人はわざわざ俺の方へ向き直り、じっと真摯な眼差しで俺を見つめるのだ。……や、やめろやめてくれ。そんなにも清らかなまなこで俺を見ないでくれ……っ!! 「光哉……ごめん、俺、それちょっと読んじゃったんだ」 「へ、へ……へぇ……よ、読んじゃったんだ……へ、へえぇ…………」 「うん……最初はそういうサイトで人が書いたやつ読んでんのかなと思ったんだけど、出てくるの俺と光哉の名前だし、書きかけのやつとかもあったから……ひょっとして……と思って」 「け、けっこう……じっくり、見たんだね…………」 「マジでごめん。……けど、実際どうなのかなって。俺の勘違いだったら悪いしさ。たまたま俺らの名前でエロ小説書いてる人がいんのかもって可能性も、なきにしもあらずだし……」 「……」  ——いないだろそんなやつ……どこのモノ好きが澄人と俺の名前使ってエロ小説書くんですか……? 俺しかいないよそんなことする変態は……。 「……………………ごめんなさい」  もう無理だ、もう謝るしかない。フラれるだけならまだマシだった。妄想をダダ漏らしにした変態小説を澄人に読まれてしまうだなんて……これこそ、本物の地獄……。 「じゃ、じゃあ……あれ、本当に光哉が書いたのか……!?」 「う、うん……ごめん……気持ち悪いよな……マジで……死んだ方がいいよな、俺……」 「いやいや! そんなこと言うなって! ……てか、マジか……そっか……へぇ……」  もう何も考えられない状態でまっしろになっている俺——……だが、そんな俺の手を、ぎゅっと握るものがある。熱い熱い、大きな手が、俺の手を……。 「へ………………?」 「……何だよ。そういうことなら、もっと早く言ってくれたら良かったのに」 「……は? ……え、なにが……?」 「光哉……!!」 「うわぁ!!」  ガバっ! と強い力でベッドに押し倒され、俺は丸い目をさらに丸くして澄人を見上げた。  すると、どういうことだろう。はぁ……はぁ……と息を荒げた澄人が、俺を組み敷いている……。  ——え? これは一体、どういう状況……?  わけもわからずきょとんとしていると、突然唇を柔らかなもので覆われた。なんてこった、これはまぎれもなく、澄人のキス……!   しかも今日は表面だけでチュッチュするやつじゃない。半ば強引に舌で唇を割られ、歯列をゆっくりと辿られた。ぞわりとした快感が粘膜を通じて全身を駆け巡り、俺は思わず「はぁ……ん……!」と声を漏らしていた。  俺が口を開けたことで、ぬるりと澄人の舌が口内へと挿入ってくる。待ち侘びていた澄人の艶かしい舌が、ねっとり、ねっとりと俺の口内のありとあらゆるところを愛撫している。上顎や頬の裏、舌同士を擦り合わせるエロいキスをさんざん浴びせられ、俺はただただ「あふっ……ン、ぁ……ふぁ」と喘ぐばかりだ。  ——あぁあ……きもちいい……! 何だこのエロいキスはっ……♡  と、うっとりそのままどこまでも快楽に流されてしまおうかと思ったけれど、確認せねばならないことがある。この行動は澄人の意志なのかどうかということだ。  あの変態小説を読んだ澄人が、俺に気を遣ってこんなことをしているのなら、無理をさせたくはない。きちんと説明をして、話し合って、澄人に無理のない範囲でエロいことをしてくれればそれでいいのだから……!! 「すみとっ……ンっ……ねぇ、なんで、どーしたんだよきゅうに……っ!」 「だって……したかったんだろ? こういうこと」 「し、し、したかったけどっ……!! でも俺、澄人には無理してほしくない、からっ……」 「無理って? ……何言ってんだよ。我慢してるほうがもう無理だったわ」 「へ」  頬を赤く火照らせ、欲望滾った瞳を潤ませながら、澄人はこれまでに見たことがないほどに雄々しい笑みを浮かべた。あまりに艶っぽくもエロすぎる笑い方で、俺のナカがきゅぅうんとひくつく。 「そ、それって……?」 「光哉ってさ、いかにも健全で元気いっぱいな高校生って感じでさ……全然エロいことしたそうに見えないんだもん。手ぇ出すのはナシなのかなって、ずっと我慢してたんだぞ」 「は!? 何それ全然そんなことないんですけど!?」 「ほんとに? 光哉ってさ、小学生がそのままおっきくなったような感じで、男とバカやってる方が楽しいですー……って感じじゃん? 違うの?」 「しょ、小学生…………俺そんな色気ないの…………? って、いやいやいやそこは置いといて…………そんなことないし! エロいことばっか考えてるスケベ野郎って思われたら嫌だから、俺、必死でそういうふうに演じてたっていうアレで……!」 「へえ……そうなんだ」  ぐに、と膝頭で勃起した股間をぐにぐにされ、俺はあられもなく「ぁあぁん♡」と鳴いてしまった。そんな俺をサディスティックに見下ろしながら、澄人は唇を吊り上げて笑い、ぺろりとエロい舌なめずりをした。……カッコ良すぎて、いますぐイキそう……。 「ん、ぁん……ぐりぐり、きもちいいっ……」 「文才あるよ、光哉。俺、読みながら勃っちゃってさ……光哉とヤる妄想しながらトイレで抜いたんだからな」 「ん、んっ……ほ、ほんとに……!?」 「っていうか、普段あんな爽やかな顔してるくせに、頭ん中であんなどエロい妄想ばっかしてたのかと思うと……」 「ご、ごめん……引くよね!? 変態だよね、俺っ……」  変態野郎、引くわ、などと罵られることを想像するだけでも、きゅんきゅんと後ろが疼いてしまう。だが澄人はかちゃかちゃと俺のベルトを緩めながらうっそりと笑い、こう言った。 「ううん、最高。スケベな光哉、めちゃくちゃそそる」 「……へっ、マジで?」 「うん。……これからは飽きるくらい、エロいこといっぱいしような」 「ひゃぁ……♡」  だらしなくよだれを溢れさせていたペニスをねっとりと扱かれるだけで、うっかりそのままイキそうになった。優しくて穏やかな澄人が、まさかこんなにも雄じみたド攻め顔を見せてくれるなんて……!!  再び舌を与えられ、俺は澄人とのディープキスに溺れまくった。その間も、澄人は俺の濡れたペニスを扱きながら、器用にシャツまではだけてゆく。    キスでとろとろの前後不覚にされ、ツンツンに硬さをもった薄ピンク色の自慢の乳首を熱くとろけたエロい舌で舐め転がされ、噛まれ、つねられて……俺はあっけなくイカされた。 「はぁっ……ァっ……ん、っ……すみと……っ」 「エロ……すげぇ感度いいじゃん。……ねぇ、書いてあったみたいにさ、アナニーとかもしちゃってんの?」 「う……うん、してる、いっぱい、してるっ……♡」 「じゃあさ……いきなりコレ、挿れちゃってもいい?」 「ぁ♡」  とっくに大きく開かされた脚の間に押し付けられたのは、紛れもなく、夢にまで見た澄人のナニだ。ズボン越しでも分かるくらいにゴリゴリに硬くなった澄人のそれは、俺の理想と想像を裏切らないほどに大きく、まるで石のように硬かった。  ——……す、すごい……! どうしよ……ちんぽも、うしろも、むずむずしてきた……。 「挿れていい……! むしろ挿れてください……! 俺、ずっとずっとこうしたくて、我慢して……ひぇっ」  にゅる……と濡れた何かが、剥き出しにされた俺の窄まりをくるりと撫でる。見れば、澄人はせかせかとズボンをずらし、あまりにも立派な剛直を露わにしていて——  ——うわ……でかっ……♡ 絶対気持ちいやつじゃん……!!  くびれたカリ首も、浮かび上がった血管の筋も、素晴らしくカッコいい澄人のそれを目の当たりにした途端、俺の唇からつつー……とリアルなよだれが滴った。  それを見た澄人は、ふっといつも通りの笑みをこぼして、指先で俺の口元を拭ってくれた。 「光哉、よだれ」 「あ……しまった」 「いいの? マジで、しても」 「いいよ! いいに決まってんじゃん! ほら、ゴムもローションも全部あるし!」 「ははっ、準備よすぎ」  もし澄人が不慣れなら、俺が全部準備して上に乗っかって、いくらでもイかせてやりたいと思っていた。実際のセックスは未経験だけど、動画なんかでめちゃくちゃ色々研究したし、アナニーでだってイケるようになった俺のナカは、まあまあ気持ちいいんじゃないかと思ってたし……。  だけど実際のところ……俺は、澄人に攻められまくって、喘ぐ声が止まらない。 「ぁ、あ、あっぁ、あん、っ……!!」 「っ……やば……光哉んナカ、良すぎ……っ……はぁっ……」 「ぁ、も、またいくっ……ァんっ……♡ すみとのちんぽ、すごすぎぃ……っ」 「そういうエロいセリフ……すげ、燃える……。ああ……まじで、気持ちイイ……」 「んんっ、ァっ……奥、奥すごいっ……♡ ン、いく、いっちゃうっ……!!」  初めはゆっくりだった抽送も、いつしか激しくなっていた。ずんずんずんずん奥を攻められながら何度もイって、ひんひん泣きながら澄人に抱かれた。  お互いの汗で肌と肌が溶け合うみたいに気持ちが良くて、何度も体位を変えながらいっぱいキスをして、何度中イキさせられたか分からないくらいによがり狂わされて——……  すっかり真っ暗になった部屋の中で、俺は背後から澄人に抱きしめられていた。一瞬落ちていたらしく、澄人とセックスしたことは全て幻だったのではないか——!? とゾッとしたけど、重だるい腰や、喘ぎすぎて掠れてしまった喉なんかは、まぎれもなく事後のそれ。  満たされた心と身体は重いのに軽い。俺は澄人に向き直って、チュッと顎にキスをした。 「……光哉……平気か? 尻とか、痛くない?」 「全然平気だし! 俺……めちゃくちゃ嬉しくてさ、なんか顔、にやけっぱなしなんだけど」 「ははっ……そっか。……俺も嬉しい。光哉が俺のこと、欲しがってくれて」 「澄人……」  たっぷり愛を確かめ合った後だからか、澄人の表情はいつも通りに穏やかだった。気遣わしげに俺の目尻を撫で、背中から腰にかけて温かい手のひらで摩ってくれる。優しい手つきが心地よくて、すごくすごく安心できたし、幸せすぎて涙が出そう。  軽やかなキスを交わし合いながら、俺はしみじみと幸せを噛み締めた。 「光哉。エロ小説もいいんだけどさ、これからは普通に誘惑してよ、俺のこと」 「えっ……いいの?」 「いいに決まってんじゃん。俺ももう、我慢しないし」 「うん、うん……!! いっぱいエッチしような、澄人!」    +  それからというもの、俺が夢小説を書くことは無くなった。  だた、「書いてあること全部試そうよ」と言って、たびたび読み返しを余儀なくさせられる時は、さすがの俺も恥ずかしい……。  けど、それもプレイの一環として楽しんでいる今日この頃。    エッチに積極的になった恋人と甘々な高校生活を送ることができて、俺は楽しくて仕方がないわけです。  おわり♡ 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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