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プラン1

「なぁ、お前。そろそろ落ち着いたか?」 差し出されたペットボトル飲料を飲み干し、僕は一息つきます。 「は、はい。助けてくれてありがとうございました。」 先程までは痴漢に蹂躙されていた僕ですが、目の前の彼はそんな僕の様子を見かね、痴漢おじさんの財布から免許証をすり取り、さらには免許証とぼ、僕の痴態を証拠写真として撮影ののち彼のブレザーを僕にかけて周りの視線を遮ってくれました。 それからはあっという間に駅員さんから鉄道警察へ連絡を取り、痴漢おじさんは逮捕され今に至ります。 僕といえば人生初の痴漢のショックと彼に一目ぼれしたショックと相まってぐずぐずと泣きじゃくってしまい、見かねた彼はそばでずっと付き添ってくれていたわけです。 走馬灯のようにこれまでの事を思い出していると、彼がちょっと顔を赤らめながら言いにくそうに話します。 「そんでさ、さっきの証拠写真なんだけど・・・痴漢も逮捕されたことだし消しちゃっても大丈夫だよな?ちょっといろいろとマズイモンも映ってるし・・・」 彼の言い方が気になり、僕は聞き返しました。 「マズイモン・・・って?」 彼は頭をバリバリと掻きながらボソボソと言いにくそうに喋ります。 「あ~えっとなぁ・・・ん~・・・お前のチンチン!」 彼の言葉が衝撃で混乱した僕は混乱したまま返事をします。 「えっと、僕らの乗ってたのは専用線路を通る電車で、路面電車ではないですけど・・・?」 えっと、チンチンというのは車掌さんが発車の合図とかで鳴らす音で、そこから転じて路面電車とかをそう呼ぶようになったもので今回の事とは何ら一切関係がありません。 「は?路面電車じゃなくてチン・・・ってあぁもうコレだよ!!」 と、彼は赤らんだ顔を背けながら彼のスマホを突き出します。画面には痴漢をされているあられもない僕の姿が映っており、さらにはぼ、僕の陰け・・・ペニ・・・えっと下腹部がバッチリと映っています。 「う、うえぇ・・・」 と声にならない声を出してしまうと、彼は慌ててスマホを隠しこちらに振り向きます。僕の顔は熱を持ち始め、その熱が瞼の奥に集まっていくのを感じていました。 「ス、スマン・・・こんなんあったらショックだろ?な?一応は証拠だけどトラブルは片付いたし消したといたほうがいいよな?な?」 「あ、あの・・・えっと・・・」 僕は恥ずかしさで全身をプルプルさせながら彼を上目遣いで見ると彼は彼のスマホを見ながら・・・見覚えのある表情をしていました。 紅潮した甘い顔・・・ギュっと引き締まってからちょっと半開きになって吐息を漏らす口・・・顔全体から力が抜けてしまっているかのような・・・欲情の顔・・・ さっきの僕と同じ・・・表情・・・ ズクンっ・・・ 頭の中と心臓に同時に音が鳴ります。 ズクンっ・・・ズクンっ・・ズクンっズクンっ 同時に鳴り響く警笛は僕の頭を麻痺させ、麻痺したままの頭は勝手に言葉を紡ぎます。 「あ、あの・・・痴漢って確かば、罰金とかで許されるって聞きますし、もし逆恨みで報復とかされたら困りますし・・・まだ残しておいたほうが・・・」 麻痺したままでも冷静な部分が駄目だと叫んでいるのが聞こえます。『消してもらえばまだ引き返せる』引き返す・・・どうして・・・ 「そ、そっか。そうだよな!この先何があるか分かんねぇもんな!オッサンの住所も映ってるし、いざって時にはこれがあったら脅しにも・・・脅しにも・・・」 そう尻切れ悪く呟きながら、彼はもう一度スマホの画面を見つめ・・・ 舌なめずりをして・・・いる・・・ 『消せ』消さない『まだ引き返せるから』どうして『不毛だ』こんなにも高揚しているのに『これからの彼の人生は』彼だって(よろこ)んでいるじゃないか『正気に戻・・・』 その瞬間から、僕は、僕の頭はずっと麻痺したままなのだと思います。 ああこれだ。これで僕は彼を、彼は僕をずっと・・・・・・ 僕は緩む口元を隠すように俯き、震えそうになる声を必死に押さえつけながら喋りました。 「うん。だからさ、君が大事に持っていてくれないかな?」

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