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般若はチョコレートを纏った先端部分を、自身の口へと入れ、もう片方のビスケット部分を上下へと動かした。
「怪士」
男を促すと、彼が一度目を瞬かせた。
般若が軽くあごを突き出し、「ん」と催促する。
男らしく整った顔が、じわり、と笑った。
筋肉に覆われた体を屈め、怪士が端を咥えようとしてくる。
般若は自分の口にある先端を歯で固定して、男が咥える直前で、それをひょいと動かした。
逃げたポッキーを、男が追う。
般若よりも厚い唇が、先端を捕らえた。
パキ……と男の口の中でポッキーが折れたのがわかった。
折れた分、怪士の顔が近づく。
パキ、パキ、と三口で距離を埋めた男の唇が。
般若のそれと、ぶつかった。
般若が咥えていたチョコレート部分が、男の舌に掬われ、怪士の口へと移動してゆく。
それを追いかけて、般若が舌を差し出すと、きつく吸われた。
互いの舌の間で、チョコとビスケットが転がり、溶ける。
「んっ……ふ、ふふっ、甘い……」
口づけに陶然となりながら、般若は笑った。
目をとろりと細めて怪士を見つめると、近い位置にある男の顔もやわらかくほころんだ。
その唇の端にチョコが付着しているのを見つけ、般若はペロリと舐めとり、舌の上の甘みをごくりと嚥下した。
「こういうゲームがあるって、ちーちゃんに教えてもらって」
「はい」
「話を聞いたときは、何が楽しいんだって思ったけど……おまえの顔が近づいてくると、やっぱりドキドキするものだね。悪くない」
ふふ、と般若が笑いながら感想を述べると、怪士の体が一瞬岩のように固まり……。
「……アザミ様」
と、唸るような低い声で名を呼ばれた。
「その顔は、反則です」
言うなり男の体がかぶさってきて、般若の口は怪士の熱い唇で塞がれた。
怪士は普段、理性の塊のような男で、般若に無理をさせないようにと情事の際にも手加減や気遣いを忘れない。
その男が、(なぜスイッチが入ったかはよくわからないけれど)こうして煽られてくれたのだから、なるほど、ポッキーゲームはなかなかいいものだな、と般若は思った。
今度またちふゆに買ってこさせよう、と次回の算段をしながら、般若は怪士の口づけや愛撫を充分に堪能したのだった。
後日、漆黒と青藍に、
「変な言葉を梓に教えるな!」
「おかしな言葉をちふゆに教えないでください!!」
と叱られることとなるが、まったくこころ当たりがない般若であった。
余談である。
END
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