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ep.14
我が子の泣き声すら花瀬は愛おしそうに眺めてはずつと笑っている。
「もー、見てないであやすとかしてくださいーっ」
紫葵はキッチンで凛のミルクを作っていたが、なかなかに泣き止まないその声にいい加減呆れた顔をして二人のいるリビングに戻ってきた。
「どうして? 泣きたいなら気がすむまで泣けばいい」
「どこのポツンと一軒家なんだよ! そんなことしてたらそのうちマンションから追い出されるわっ!」
「なんだよー、世知辛い世の中だなぁなぁ……」
「もー、またおじいちゃんみたいなことゆってぇ〜。はい凛、ミルク飲もうねぇ〜」
紫葵は慣れた手付きで凛を腕の中に収め、哺乳瓶でミルクを飲ませてやる。さっきまで泣いて瞑っていたまん丸の目をぱっちり開いて凛はミルクに夢中だ。
「女の子かぁ……」と花瀬はその姿を眺めながら改めてしみじみと口にする。
「なに? 男の子が欲しいの?」
「いや、何処の馬の骨ともわからんやつが凛に触るのかと思うと、想像するだけでもう吐きそう、寒気がする。今から気が狂いそう」
「は? こんな赤ちゃん相手に何言ってんの?」
「女の子はませてるだろぉ〜、幼稚園から彼氏作ったりするだろ〜」
紫葵は相手するのも最早面倒なのか、少し黙って花瀬を一瞥すると、その後は一切視界にすら入れようとしていなかった。
「ねぇ、冷たくない?! 番、番! この子のパパだよ!」花瀬は涙目になりながら必死に自分を指差す。
「大きい声出さないで、凛が驚く。ただてさえそんな低音声に慣れてないんだから」
紫葵は花瀬を見ることなく静かに無駄に足掻く夫を制御する。
「ねぇ、紫葵」
「なぁに?」
「紫葵のご両親にずっと挨拶してなかったけど……俺のことや、凛のこと、ご両親は知ってるの?」
微笑みながら我が子を見つめる紫葵の空気が一瞬にして重くなるのを花瀬は悟ったが、いつまでも避けては通れないだろうとその扉を叩く。
「──おばあちゃんに凛のこと色々相談してたから……そこから伝いには知ってるとは思う……」
「そう、紫葵が凛のことで頼れる相手がいて少し安心した。けど──そっか、ご両親には報告してないんだね。これからもするつもりはない?」
「──うちは、慧くんのご両親みたいに……ちゃんとした家じゃないから……」
花瀬は凛を抱える紫葵ごと後ろから柔らかに抱きしめる。
「──紫葵、君と正式に結婚したい。命が尽きるその日まで、俺のそばにいて欲しい」
紫葵が突然石のように固まって何も話さなくなってしまったので花瀬は不安になりその顔を覗き込む。
「──シミュレーションしてたのに、全然違うや……」と紫葵の耳まで赤色に染まっている。
「シミュレーション?」
「慧くんは俺になんて言ってくれんだろうって……ずっと一人で考えてた……けど、そんなの全然超える。破壊力ヤバい、心臓おかしくなりそう」
「可愛いな、もう──」と花瀬はため息混じりにそのおでこにキスを落とす。
「返事くれないの?」
「──います。慧くんのそばに、永遠に俺はいます──あなたと結婚します」
紫葵はゆっくりと花瀬に口付けてからその頬を撫でて瞳を追い、幸せそうに笑った。そのタイミングで凛が大きなゲップをしたので二人は同時に凛の顔を眺め、そしてお互いに顔を見合わせて大きく笑った。
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