「……中国にもやっぱ、えっちなお店とかってあるの？」 　紫葵は花瀬の首筋を甘噛みしながらどことなく奥歯に物が挟まったような言い方をした。 「何それ」 「だって、2年って……長い、から……」 　自ら口にしておきながら、紫葵は嫉妬と悲痛が重なって重くなった睫毛を伏せた。 　そんな可愛げのある表情を見ることすら久しぶり過ぎて、花瀬は口元が緩みそうになるのをどうにか堪えた。 「──紫葵は？」 「俺？　俺はもう凛に忙しくってそんな暇なかった。けど、最初の何ヶ月かは一人でしてた、よ？」 「一人でしてるとこ見せて欲しかったなぁ〜」 「エロオヤジッ」 「だって、そんなの聞いたらすごく損した気分。紫葵が俺の知らないところでそんないやらしいことしてたなんて……」 「もうっ、勝手に想像しないで！」一人妄想に耽る花瀬の胸を紫葵は赤い顔をして叩く。 「そーいう慧くんは？　一人でシテたんですか？」 「してたよ」 　その言葉に何故か紫葵は驚き、思わず固まる。 「──何？」 「ううん、なんか──想像できなくて。慧くんはそういうのしなさそう……」 「紫葵の中の俺ってどういう男になってんの？　それに知ってるだろ？　俺がエロオヤジなことくらい」 「ふふ、そうでした」 　紫葵は照れながらも柔和に微笑むと、愛しい男へ口付ける。会えなかった日数分、寂しくて泣いた涙分──何度も何度もその唇を味わった。 「愛してるよ……紫葵」 　紫葵は花瀬の首に腕を巻きつけ、堪えていた涙をその胸へと溢す。声を失った紫葵の唇を花瀬は優しく啄み、その中もゆっくりと味わう。次第に激しくなるそれに紫葵は息を乱して甘く鳴いた。 「可愛い──もっと聞かせて、紫葵……」 「えろ、おやじ……」 　その言葉に花瀬はくしゃりと愛しげに笑うだけだった。 　紫葵は全身が震えた──。 　ずっと触れることのできなかったその指やその肌、全ての感覚に気が狂いそうだった── 　こんな感情自分の身体のどこに眠っていたのだろかと思うほど強くて大きくて熱い波── 　裸になって抱き合うだけで涙が出る── 　はじめてのセックスみたいに頭の中が真っ白になる── 　もう何回も繰り返し抱き合ったのに── 　もう何回も繋がりあったのに── 「……抱き締められるだけで……なんか、イッちゃいそう……」 　吐息混じりに紫葵は潤んだ瞳で切なそうに囁く── 「そんなの……俺も同じだよ……」 　幸せそうに微笑む紫葵に花瀬は何度も口付け、紫葵と同じくらい全身を襲う熱い波に吐息を漏らした──。 　2年前と何も変わらない──白くて柔らかな紫葵の肌──。 　そこから香り立つ甘い花の匂い── 「……ヒート、近いの？」 「うう……ん。けど……だめ……慧くんの匂い嗅いだら、全身おかしくなっちゃうの……頭の中も溶けちゃいそう……」 　無自覚に腰を畝らせる紫葵に激しい劣情を覚え、花瀬はごくりと喉を鳴らした。 　わざと歯を立てて紫葵の胸の尖りを味わうと、紫葵はビクビクと腰を浮かせた。 「……柔らかい、やらしいな……。紫葵の胸、いつからこんなにいやらしくなったの？」 「んっ……馬鹿……それ、は、慧くんのこと、興奮させるためとかじゃないんだからねっ……」 「じゃあ、何？」そう聞きながらも花瀬は紫葵の胸を執拗に嬲ってきつく何度も吸い上げた。 「もっ、あっ……そんな強くしたら……だめぇ……」 「──だって、紫葵の身体の中に俺のためじゃないところなんて一つもないだろ？」 　指で尖りを何度も摘ままれながら、舌は臍から腰へと降りてゆく── 「うん……俺の全部……ぜんぶ、慧くんのものだよ……」 　花瀬は紫葵の未成熟な雄を舐め上げてニヤリと笑った── 「あっ……」 　直接触られなくともすでに濡れている紫葵の秘部を花瀬の舌がうまそうに舐めとる。 　初めてした時は恥ずかしくて嫌がっていたくせに、今の紫葵は花瀬にされる全てが嬉しくて、愛おしくて──。花瀬のする何もかもを受け入れては素直に感じて幸せそうに愉悦の笑みを浮かべた。 　わざと音を立てて花瀬が紫葵の中を犯しても、紫葵は嫌がるどころか大きく脚を開いてもっと中へと男を誘惑する。 「あっ……すご、い、……中っ、慧くんの……熱い……あっ、気持ちぃ……」 　舌の代わりに長い指を中へ這わせると、紫葵はいっそう全身を揺らした。 　久しぶりだというのに、そこはすぐに柔らかくなって、愛しい男の指を食いちぎるように締め付けては畝らせ、相手の理性をどんどん奪ってゆく──。 　もっと甘い声が聞きたくて、紫葵の好きな場所を強く何度も責めると紫葵はかぶりを振って一層よがってみせた。 「やあっ、だめ……っ、イッちゃうっ……だめっ、だめぇっ」 　桃色に染めた肌を涙で濡らしながら紫葵は腰を何度も魚のように跳ねさせては絶頂を迎えた── 「あーっ！　あっ……ぁあ……」 　紫葵は全身をせり上がってくる快感に酔いしれながら大きな幸福感で泣いていた。 　優しく何度も口付けられ、潤む瞳で花瀬に微笑みかける。 「怖いな……」花瀬が力なく突然そう口にしたので紫葵は不思議そうな顔に首を傾げる。 「こわ……い？　なにが？」 「こんな紫葵見せられたら、俺、挿れた瞬間イキそうで、怖い……」 「ぷっ！　何それェ〜」 　紫葵は花瀬の頬を撫でながら「そんな慧くんも見てみたいかも」と小悪魔みたいに微笑んだ。 　しかし、紫葵は花瀬というαを甘く見ていた──。 　どんなに自分が焦らしたところでこの雄が余裕なく乱れ狂うことなどないのだと──。 「嘘っ、つき……っ、あっ、慧く……っ、そこだめっ、だめっ、またイッちゃう、イッちゃうからぁっ」 　ずっと待ち焦がれていた熱の杭に身体の中を貫かれるたび、紫葵は気が狂いそうになっては何度も絶頂を迎えていた── 「もうっ……いやっ、怖い……っ、やあっ……」 「いや？　もう、やめる？」 「ヤダァ、やめないで、やめないでっ……慧くん、慧っ……早く、早く……中、中……欲しい……っ」 　紫葵は花瀬の身体に四肢を絡めて、逞しい雄を逃すまいと奥まで締め付ける。 　中で形を変えるそれに紫葵は愉悦の声を漏らした。 「あ……、俺のあそこ……慧くんので……いっぱいになってる……俺の、中でドクドク言ってる……慧くんの……」 「うん……紫葵の中熱い……すごく気持ち良いよ……」 　やわやわと花瀬の雄を締め付けながら、ゆっくりと紫葵は最後を迎えれるのだと安堵したように胸をゆっくり上下させていた──だか、次の瞬間激しく口付けられ、それはあくまで小休止に過ぎないことを思い知らされる── 「んぅっ、……あきっ……ああっ！」 　身体の中を抉られるみたいに激しく穿たれ、恐ろしい刺激に眩暈を起こす。腰をしっかりと捕まえられたまま、紫葵は何度も花瀬に奥の奥まで貫かれ、声にならない音が喉から掠れて出るばかりだった。 「紫葵──もう絶対……離れないから──愛してる……」 　紫葵がその大きな瞳から涙を弾かせると同時に、花瀬は紫葵の中で最後を迎えた──。 　身体の中に愛しい男の体温が広がって、紫葵は悦楽に浸り静かに涙を流した──。