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第7話「マジ、泣きたい気分」

 この大学は、3年から本格的にゼミが始まる。人数が限られているので、人気のゼミは面接や試験がある。予備ゼミに1年2年の頃から入っておいた方が、合格の確率があがる。人気ゼミは教授が、予備ゼミは准教授が担当する。  椿先生は若くして准教授、容姿も良い事もあって、大人気。予備ゼミすら、入るのが大変。  オレは、1年の前期は落ちてしまって入れなかった。完全に油断してて大失態。後期の試験はしっかり準備をして試験に臨んで合格、2年も無事入れた。  四ノ宮は、まんまと1年の前期から入ってきてるけど。  1年はたった4人。2年が12人。  ちなみにこのゼミに来る3.4年生は、上のゼミの生徒で、椿先生の手伝いやら後輩の面倒を見る為やらで来てるだけで、授業を取ってる訳じゃない。基本いつも居るのは、1.2年生。  3.4年のゼミが人気で、椿先生のゼミも大人気ではあるけれど、授業も課題も結構厳しくて有名。半期出れば、一応その分の単位は取れるので、嫌になって、やめてく奴も結構居る。  オレは、1年前期落ちたけど、前期でやめた奴らが居たので、後期で入れた感じ。  ――――……結構、色々本も読まないといけないし、レポートも多いし、来週までに考えてきて、という事も多い。このゼミに入ると、勉学がかなり優先になる。  だから。オレが羽目を外すのだって、ほんとに最小限。  どうしても人恋しくなって、快感に浸りたいなーて時だけ。  ……そうだ。  オレは。  こんな事に、悩みまくってる暇はないんだ。  一応、なんとか授業には集中した。  今日は割と早めに終わった。いつもは金曜の最後のコマというのをいいことに、20時まで続く事もあるので、18時半なら全然早い。 「先生、夕飯行きますか?」  学生の1人が言った。  今日は無し! なんとなく行く雰囲気だからいつも参加するけど、今日はやめて、オレは、四ノ宮と話すんだー!  心の中で叫んでると、椿先生が首を振った。 「今日は教授と予定があるんだよ。だから授業も早めに終了」  あ、そうなんですねー、とか、皆と笑ってる。  超ラッキー!  心の中で叫びながら。  四ノ宮が立ったら、オレも立って、追いかけよう。そう思って、帰る支度だけはした。タイミングを合わせるために、スマホを見る振りを始める。 「ユキ帰ろーぜ」 「飯食いに行く?」 「あ、今日はごめん。ちょっと……」  言いながらスマホを見てると、皆、誰かと約束かなみたいな顔で納得して、じゃあまたなー、と、バラバラと帰り始める。  少し離れた席に居る四ノ宮は、1年同士で話していたんだけど。全然立ち上がらず。  あれ。……追いかけられないじゃん。  スマホを見ながら、ずーっと四ノ宮の動きを目の端で追っていたんだけど、全然動いてくれず。  結局、皆がバラバラ帰って行って、四ノ宮の友達たちも、四ノ宮を置いて帰って行ってしまった。  つまり。  今この教室には、オレと、四ノ宮の2人だけ。  ――――……あ、そう。   もともと、お前も、話す、つもりだったんだな。  はー。  ……やっぱ、なんか、得体がしれなくて。  ――――…… 怖い。  ごく、と喉が鳴る。なんか自然と、唾を飲み込んでしまった。  スマホを伏せて。俯いていた顔を上げた。  それに合わせて、四ノ宮もこっちを向いて、オレと視線を合わせてきた。 「――――……オレと、話す時間、ある?」 「……ありますよ? 今日予定ないんで」  ああ。なんか。今、気づいた。  ……直接面と向かって、2人きりで言葉を交わすのは、初めてだ。  ゼミで討論とか。丸くなって、誰かと一緒にとか。  皆で食事に行って、たまたま何人かの中に居たとか。それはあったけど。  オレが四ノ宮だけに向けて喋るのは、多分、初だ。  このゼミで、こんな相手、こいつだけだ。  他の奴とは、1年も含めて、皆とそれぞれ喋ってる。  基本オレ、男子も女子も、誰とでも喋るから。  ――――……多分オレ、相当苦手なんだな。きっと。  別に絶対避けようと決めてた訳でもないのに、多分無意識レベルで、こんなに避けてしまう程に。  …………何でそんな奴と。  これからするような話。 しなきゃいけないんだろう。  マジ、泣きたい気分。     

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