6 / 542
第6話「話すしか無い」
一限から四限までは、表面上は普段と変わりなく、友達と過ごした。
もう心の中は、いつ変な目で見られるかとか、バクバクだったけど。
……まだ誰にも知られてない。
まあ、学年が違うから、四限まではもしかして大丈夫かなと思っていたけど。
いよいよ。五限のゼミ。
ゼミの教室の前までは来たけれど、入りたくない。
入ったらもう、冷たい視線が飛んでくるのかな。
でももう開始ギリギリ時間……。
おそるおそる、ドアを開けて、中を覗く。
「何してんの、ユキ」
ドアの所で変に止まってるオレを見て笑う友達。
全然変わらない皆の態度。
「――――……」
くる、と見渡して。四ノ宮を見ると。
奴は、ふ、とオレと視線を合わせて、にっこりと笑ってる。
それはそれは、いい笑顔だから余計に。
――――……こ、わ。
後ずさって、ここから逃げてしまおうかと、思った瞬間。
「ユキくん? 入らないの?」
振り返ると、ゼミの准教授の、椿 先生がオレの背後で笑ってた。
「あ。すみません。こんにちは、先生」
「ん。入ったら?」
「……はい」
教室の中に進んで、友達の隣に座る。
ゼミが始まった。最初は椿先生の講義。
――――……ほんとに、四ノ宮、何考えてんだろ……。
怖い……。
絶対、皆が言うような性格まで完璧な、「王子」じゃない気がするんだけど。でも周りの奴らの評価は「ガチで王子」らしい。
一回だけ、ゼミで仲の良い、相川 小太郎 と女友達の佐倉 翠 に聞いたことがある。
「なあ、四ノ宮って、ほんとに王子?? 中身、違うってことはない?」
そしたら。「はあ?」という顔をされて。
「いやいや、あいつは良い奴だろ」
「そうよ、ガチ王子、よ?」
助けられたこととか、こんないいことしてたとか、なんかどーでもいいエピソードを並べたてられた。
……そうじゃないんだよ、そういう、やろうと思えばいくらでも作れるものじゃなくて。本性というか心ん中……。そう思ったんだけど、もはや洗脳されまくりだったみたいなので、突っ込まなかった。
四月に入ってきて、六月にそれを聞いたけど、もはや友達にすら相手にされず……。まあ、四ノ宮とは学年も違うからか、そこまで個人的には絡まずも居られるし、このままオレが卒業するまで猫かぶっといてくれればいっか。ということで、もうその話をするのはやめた。
……誰も分かってくれなそうだし、オレのただの感覚なので、オレが間違ってるのかもしれないし。
「四ノ宮くん、どう思う?」
たまたま先生の隣に座ってたので、いきなり当てられた四ノ宮は、周りの苦笑に微笑んで、それでもすぐに、自分の考えを話し出す。
それを聞きながら。
――――……すぐに誰かに言うとか、それはする気が無いみたい。そう思った。
まあでも、落ち着いて考えればそうか。
……そんな表立って、あいつゲイだとか、非難するようなこと……しないタイプだよな。
でも昨日、思い切り目が合ってしまったし。
昨日も今日も意味ありげに、にっこり笑われるし。
絡みたくないとか、もはや言っていられない。
――――……もうあいつと、話すしか無い。
ともだちにシェアしよう!