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第6話「話すしか無い」

 一限から四限までは、表面上は普段と変わりなく、友達と過ごした。  もう心の中は、いつ変な目で見られるかとか、バクバクだったけど。  ……まだ誰にも知られてない。  まあ、学年が違うから、四限まではもしかして大丈夫かなと思っていたけど。  いよいよ。五限のゼミ。  ゼミの教室の前までは来たけれど、入りたくない。  入ったらもう、冷たい視線が飛んでくるのかな。  でももう開始ギリギリ時間……。  おそるおそる、ドアを開けて、中を覗く。 「何してんの、ユキ」  ドアの所で変に止まってるオレを見て笑う友達。  全然変わらない皆の態度。 「――――……」  くる、と見渡して。四ノ宮を見ると。  奴は、ふ、とオレと視線を合わせて、にっこりと笑ってる。  それはそれは、いい笑顔だから余計に。  ――――……こ、わ。  後ずさって、ここから逃げてしまおうかと、思った瞬間。   「ユキくん? 入らないの?」  振り返ると、ゼミの准教授の、椿(つばき)先生がオレの背後で笑ってた。 「あ。すみません。こんにちは、先生」 「ん。入ったら?」 「……はい」  教室の中に進んで、友達の隣に座る。  ゼミが始まった。最初は椿先生の講義。  ――――……ほんとに、四ノ宮、何考えてんだろ……。  怖い……。  絶対、皆が言うような性格まで完璧な、「王子」じゃない気がするんだけど。でも周りの奴らの評価は「ガチで王子」らしい。  一回だけ、ゼミで仲の良い、相川 小太郎(あいかわ こたろう)と女友達の佐倉 翠(さくら みどり)に聞いたことがある。 「なあ、四ノ宮って、ほんとに王子?? 中身、違うってことはない?」    そしたら。「はあ?」という顔をされて。 「いやいや、あいつは良い奴だろ」 「そうよ、ガチ王子、よ?」  助けられたこととか、こんないいことしてたとか、なんかどーでもいいエピソードを並べたてられた。  ……そうじゃないんだよ、そういう、やろうと思えばいくらでも作れるものじゃなくて。本性というか心ん中……。そう思ったんだけど、もはや洗脳されまくりだったみたいなので、突っ込まなかった。  四月に入ってきて、六月にそれを聞いたけど、もはや友達にすら相手にされず……。まあ、四ノ宮とは学年も違うからか、そこまで個人的には絡まずも居られるし、このままオレが卒業するまで猫かぶっといてくれればいっか。ということで、もうその話をするのはやめた。  ……誰も分かってくれなそうだし、オレのただの感覚なので、オレが間違ってるのかもしれないし。 「四ノ宮くん、どう思う?」  たまたま先生の隣に座ってたので、いきなり当てられた四ノ宮は、周りの苦笑に微笑んで、それでもすぐに、自分の考えを話し出す。  それを聞きながら。  ――――……すぐに誰かに言うとか、それはする気が無いみたい。そう思った。  まあでも、落ち着いて考えればそうか。  ……そんな表立って、あいつゲイだとか、非難するようなこと……しないタイプだよな。  でも昨日、思い切り目が合ってしまったし。  昨日も今日も意味ありげに、にっこり笑われるし。  絡みたくないとか、もはや言っていられない。  ――――……もうあいつと、話すしか無い。

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