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第10話 「予想外?」

 少し黙っていた四ノ宮が、ゆっくりとオレに顔を向けた。 「――――……隠すの、辛くないですか?」 「え?」  いきなり言われた言葉についていけず、四ノ宮を見つめ返すと。  四ノ宮は、一瞬、ふ、と笑って、続けた。 「オレ、なんでも話、聞きますよ?」 「――――……」 「誰かに話したい時とか。 オレに言ってくれたら、嬉しいですけど」 「――――……」  言葉だけ聞いてたら。いい奴だと、思う。  ――――……ゲイ告白に引きもせず。しかも、生々しく男とラブホに入ってくとこまで見られたのに。  隠してると伝えたら、話聞きますよ、って。言ってくれる。  すごく――――……いい奴、に、聞こえる言葉なのに。  ……ああ。  うん。  ……面と向かって、言葉を聞いて、顔を見て。  そしたら、唐突に分かった。  オレがこいつを苦手な理由。  たまに一瞬だけ見せる、表情と、そのセリフが。  なんか、合って、ないんだ。  だから。――――…… うさんくさいって。  裏がありそう、本性隠してるって。  オレは、感じてるんだ。 「あのさ、四ノ宮……?」 「――――……」 「……お前、本気でそれ、言ってる?」 「――――……は?」  眉を顰めた顔。  ――――……怒らせたら、ばらされるかなあ……。  なんて思いながらも。  もう、なんか。  このモヤモヤを晴らしたくてしょうがない。 「本気でしゃべってる?って、聞いてるんだけど……」 「――――……どーいう事ですか?」  す、と視線が鋭くなる気がする。  ――――……いつもの、フワフワした、いかにも良い人な感じの笑みが、少し引いた。  どう、転ぶ、かなあ……。  これ、言ったら。まずいかなあ……。  でもダメだ。ここで止めるなんて無理。 「ほんとはさ、違うこと、思ってない?」  そう聞いたら、四ノ宮はオレをまっすぐ見つめた。 「……じゃあ、今、オレが何て思って話してると思ってるんですか?」  そう聞かれて、少し考える。  ……何となく。浮かんではいるんだけど。  言って良いのか、躊躇う。  数秒躊躇ってから。オレは、思い切って、言ってみることにした。 「……間違ってたら、ごめんな」 「――――……はい」 「……ゲイなんだから辛いことなんかいっぱいあるだろうけど、まあ自業自得だし、オレ良い人って事になってるし、少しは、話位聞いてやろうかなあ。みたいな……?」 「――――……」 「……分かんないけど。なんか、そんな感じ……? 良い人って、思わせたいんだろうなあとか………そんな気がする」 「――――……」  なんか、ものすごいマジマジと、見つめられる。  あまりに長いこと、何も言われず見つめられて。  ちょっと冷静になると。 「……ごめん、失礼か。……失礼だよなオレ。悪い」  よく考えたら、ゲイを隠してくれて、表面上だったとしても、話聞きますよとか、言ってくれた後輩に言う事じゃない。  ……どんなに苦手でうさん臭くて、耐えられなくなったとしても。  言うべきじゃなかった……かな。 「……ごめん、今の、言い過ぎた」  ……唐突に失礼だったよな。そう思って、謝る。  四ノ宮は、じっとオレを見ていたけれど。  ふー、と息をついて。  自分の前髪を掻き上げた。 「……ほんと先輩てさ」 「――――……?」 「……なんか予想外っていうか………」  ……予想外? 「……四ノ宮?」  四ノ宮は、目の前で、ふ、と苦笑いを浮かべた。  なんだか、その笑いは。  いつもの、良い人を作った、笑顔じゃない気がして。  じっと、見つめてしまった。  

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