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第51話「発散」*奏斗
夕方までなんとか頑張って、ゼミの課題をやっていたけど。
もう、色々耐えられなくなって、家を出た。
「こんばんは、リクさん」
「ああ、ユキくん。こんばんはー」
いつものクラブのバーテンのリクさん。通う内に話すようになった。
この人は、バイ。それをさらっと言ってくれたから、何回目かに話した時、ゲイだと告白した。これまた、さらっと、そうなんだ、と言ってくれた。
危なそうな奴のこと、近寄らない方がいいよって、さりげなく教えてくれる。
リクさんは情報通で、結構お客のこと知ってる。めちゃくちゃ話しやすいから、皆がきっとリクさんに話すからなんだろうなーと思うけど。
「珍しいね、日曜に来るとか」
「……うん。ちょっと」
「やなことでもあった?」
「――――……うん、ちょっと」
「……発散しに来た?」
「――――……うん」
そっか、と微笑む。
――――……リクさんにも、恋人は要らないって話だけはしてあって、意気投合したら、一回限りでオレがしてることも、知ってる。
「あそこの人、たまに来るけど、悪い噂は聞かないよ。好みなら」
「……あの人ゲイなの?」
「見えないよなー。でも、そうだよ」
カウンターに座って、一人で飲んでる男の人。ちょっと年上かな。
ルックス超いい。リクさんと話しながら見てると、かわるがわる女の子達が誘いに来る。それを全部、優しい笑顔で断っていた。
――――……優しそう。慣れてそうだし。
出来たら、何も考えられない位、上手な人が、いいな。
「……声かけてみる」
「んー」
リクさんが、ふ、と笑って、頷く。
「こんばんは」
服も、時計も、高そう。イケメン。優しそう。少し年上っぽい。余裕があって。
……いいかも。
「――――……隣、座っても、いい?」
その人は、オレをじっと見て。
ふ、と笑った。
「……いいよ?」
ありがと、と言って隣に座った。
少し話して。
誘い方もスマートで、嫌なところが無かった。
ホテルに入って、先にシャワーを浴びて。
ベッドで待つ。
――――……何でか。四ノ宮の、心配そうな顔が、浮かんだ。
別に。完全に全く知らない奴とはしてない。
大体リクさんとか、オレが話す誰かが、知ってる奴。
まあ最終的な所は、変な奴じゃない、という、自分の勘を信じるしかないけど。
今迄、ゲイだってことがバレたくなくて、ほんと、周りばかり気にしてきた気がする。
顔がこんなだから、特に女子に見られてることが多くて。
中学の時とかも、和希をよく見てるなんてバレたら困るから、和希を必要以上に見ちゃダメだ、とか。仲良くしすぎちゃダメだ、とか。
高校になって、和希と付き合ってからも、バレちゃダメだって思ってた。
自惚れとかじゃなくて、やたら見られることが多かったから、絶対バレないようにって。――――……もういっそ、バレないように一人部屋にこもって生きていきたいとか、思うこともあったけど。
オレ、人と絡むのはどうしても好きで、そんなことも出来なかったし。
普通の人以上に周りを気にして生きてきたから、人を見る目はあると思う。
四ノ宮の笑顔が嘘っぽいと思ったのも――――……理由なんか無くて、直感だし。
幸い、その直感は、今の所外れたことはなくて、ベッドの上でも怖い目にも、危ない目にも遭ったことが無い。変な趣味の奴も居なかったし。
絶対大丈夫だよとは言えないけど――――……。
あんなに、心配してくれなくてもいいのにな。
そんな心配させちゃうとか。
……一度限りの色んな奴となんて、言わなきゃよかった。悪かったな……。
あいつ、外面とっても、別にそんな悪い奴じゃないのに。
まあ。たまにすごい不機嫌になるけど……それは、オレのことが理解できないだけかもしれないし。
――――……そんなこと、考えていたら、シャワーを浴び終えて、相手が出てきた。
少し話しながら、すごく自然に押し倒される。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――……っあ……」
この人、めちゃくちゃ、上手だ。
気持ちイイ。
「……イイね、君…… 気持ちいい?……」
「……うん。――――……気持ち、いい……」
「――――……可愛いね……」
くす、と笑ったその人は、オレの脚を抱えて。
一気に奥まで、突き入れてきた。
「……あ……ぅ、ん……っ」
……何も。
このまま何も考えられなくなりたい。
少しの間でも、良いから。
思った時、ふと頬に触れられて、顔が近づいてきて――――……。
「――――……ご、めん……キスは……」
「……キスは嫌い?」
「……うん、あんまり……」
「ん、分かったよ」
良かった。……分かってくれる人で。
ちゅ、と頬にキスして、首筋にキスして――――……。
どうしてもしたい人とは、するしかないと思ってるけど。
……キスは――――…… なるべくしたくない。
そんなの、こだわってるって…… オレは、まだ――――……。
そのまま、何も、考えないように。
その行為に、集中、した。
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