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第71話「そういうとこ」*大翔
「……何がやなの? 変な奴に会わせたくないってこと?」
「――――……」
まあそれもそうなんだけど……。
よく分からないから、はっきり言えない。
「……あのさ、四ノ宮さ。大学入ってからはずっと、オレこうやってたし。そんなに危ない目にも合ってないよ? クラブの店員さんと割と仲良くて、良さそうな人教えてくれるしさ。ちゃんと気を付けてるからさ。ほんと、心配しないでよ?」
とか言ってくる。
「――――……んな事言っても、1人で行かないでくださいよ」
オレがあくまでそう言うと。
先輩は、う……と言葉を失って。
はーと、ため息を付きながら、お湯を落としながら。
「……カップ用意して」
もうこの話は何か言うのを諦めたのか。
カップの話になった。
「はい」
返事をしながら食器棚。
――――……こんなの、キレてもいいのに。
意味わかんねえって、言ってもいいのに。
……言わねえんだな。
心配、してると思ってるから、きっと無下にできないんだろうなぁ……。
ほんと人が好いなと。
苦笑い。
先輩がコーヒーを淹れ終わって、2人でまたテーブルで向かい合う。
「美味しいですね。何がちがうんだろ……」
「今淹れ方みてたんじゃないの? 近くで」
「……そういう見方はしてませんでした」
「えーじゃあ何であんなに近くに居たの?」
クスクス笑う先輩。
そー言われると何でだか。
「……四ノ宮ってさ」
「はい」
……先輩の、四ノ宮ってさ、っていう呼びかけ。
ほんと多い気がする。
「オレのこと嫌い、じゃないんだよな?」
「オレ、嫌いな人、家に呼ぶよーな奴じゃないです」
「分かった。……じゃあさ」
「はい」
「怒ってんなら、ちゃんと話してよ」
「――――……別に、オレ、怒ってないですよ」
「……すぐ眉、寄るじゃん」
「先輩の方が寄ってますけどね。今」
「オレは、なんか、困ってんだよ。怒ってるんじゃないよ?」
――――……ほんと。
なんか。
……こういう喋り方。
なんか、気に入ってる、気がする。
素直で。でもこんな話をしていても、攻撃的な訳じゃなくて。
――――……なんだろうな。これ。
「先輩ってさ」
――――……オレのこの言い方も、多いかな?
「うん?」
「誰に対しても、そんな感じで話すんですか?」
「――――……そんな感じって?」
「……その感じ」
「その感じって言われても、分かんない」
先輩は、ぶー、と膨らんでから。ぷ、と笑う。
「ゼミの時とか、頭よさそーに喋んのに、何でオレとしゃべる時は、必要な事も言わねえの? 良く黙るし」
「――――……」
言っちゃいけない事があるかな、と考えるから。
または、明らかに、オレが言う権利がないよく分かんねえセリフが浮かんでるから。
――――……とは、言えない。
「勉強系で考えて話す事は、得意なんです」
「……普通はそっちの方が苦手だけどね」
「そうですか?」
「……だって、そっちは頭使わないといけないけど……普通の会話は思ってる事言えばいいだけじゃん」
「――――……」
ああ、そういうとこだな。
――――……ゲイ関連の会話は、別だろうけど。
それ以外のとこは、思った事をほぼそのまんま話してる、てことだよな。
そんでもって、攻撃にならないって。
すげえなと。
そういうとこが、気に入ってんのかも。
ちょっと尊敬もしてしまう。
でもって、そんな人が、恋人でもない知らねえ奴に――――……って思うと。
……やっぱ腹立つ。
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