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第77話「相性、最悪」*奏斗
しょうがない、用も済んでんのに、いつまでもここに居るのも変だし。
トイレ、出るか。
頼むから四ノ宮もうどっか行っててくれ、と思いながら、鏡の前から退こうとしたら。
「お兄さんて」
「え?」
話しかけられて、振り返る。
「モデルさんとか、やってますか?」
「……ううん。やってないよ」
「すっごいカッコイイですよね」
何の意図も無さそうな感じで言われて、ぷ、と笑ってしまった。
「ありがとうって言えばいい?」
「はは。お礼とかは別に。さっきのって合コンですよね? いいですね、絶対モテますよね」
トイレに掛かってる、掃除のチェック表みたいなのに丸を付けながら、そんな風に言う。
なんか嫌味が無いと言うか。
言い方によったら、何て返事して良いか分からないとこなんだけど……。
やっぱりいい子そうだな。
「そんなモテないよ」
「絶対嘘ですよね。あ、出ますよね?」
クスクス笑いながら、その子がドアを開けてくれる。
「ありがとね」
「いえいえ、どうぞー」
横を通り過ぎようとしたその瞬間。
その子にぶつからないようにと横ばかり気にしていたら。
「だっ……!」
「えっ??」
段差で躓いて、咄嗟に支えてくれたその子に、突撃したみたいにぶつかる。
「――――……痛……っ」
……オレ、ほんと、たまにこういう事するよな……。
「いったー……つか、ごめん、痛いのそっちだよね」
何でそうなるんだか、頭突きしたみたいな感じになってしまった。
「大丈夫……ってか、お兄さん、結構ドジですか?」
「うん、たまに……ほんとごめんね」
「いーですけど。意外」
支えてくれて、起こしてくれながら、ぷぷ、と笑われる。
その子の腕に手をかけて、体を起こす。
「ありがと……ごめんね」
「大丈夫ですか? 頭」
「うん、痛いけど」
あは、と笑われる。
「ほんとごめんね、ありがと」
「いえいえ」
笑いあって、そこで別れる。その子は、厨房の方に入っていった。
うーん、四ノ宮があんな感じで、隣に明るく住んでいてくれたら良かったかな。と、またまたバレたら超怒られそうな事を思いながら、部屋に足を向ける。
――――……なんか、頭ん中に、いっつも四ノ宮が居るみたい。
そういう色っぽい意味じゃなくて。
何なんだろ。これ。マジ意味が分からない。
うー……マジで痛い、突撃したおでこ……。
おでこに触れて、擦りながら歩いてると。
角を曲がった所に四ノ宮みたいなのが見える。廊下、やたら暗くてよく見えないんだけど、多分、さっきと同じらへんにいるから、そうだよな。
女の子は居ないかな、見えないけど……思いながら近づくと。
ふ、とオレの方を向いた。
「あれ。女の子は?」
「――――……」
「部屋、戻らないの?」
あ、女の子トイレとか? ここで、女の子待ってるとこだったのかな?
「オレ先戻ってるね」
言ったて歩き出そうとした瞬間、腕を掴まれて止められた。
え。
びっくりして振り返ると、超近くで。
なんか睨まれてる?
「――――……???」
「……何で先行くんですか?」
「え?……あ。 だって、女の子、戻ってくるから、待ってるんじゃないの?」
「もうとっくに居ないし」
はー、とため息をつかれるけど。
……そんなの知らないし。さっき一緒に居たじゃん。
「――――……で、何であんたは、トイレの前で店員と抱き合ってる訳?」
「――――……」
一瞬頭が真っ白。
それで、その意味が、分かった瞬間。
……ちーーーーん。
と、頭の中で、効果音。四ノ宮と居ると、よく鳴る音な気がする。
……違うし。
抱き合ってないし。
転んで、意味不明に、頭突きしただけだし。
つかさ。
――――……転んだとこも、その後すぐ、起き上がったとこも見てなくて、
瞬間的に、支えてもらったところだけを見て、引き返してたってこと。だよな。
こういうのを、最悪なタイミングって、言うんだよな……。
思えば、四ノ宮と居ると、それが何回もやってくる感じが……。
――――……ホテルでばったり会ったり。
四ノ宮と居る時に、和希の事で真斗から電話が来て、何も取り繕えなくなったり。……まああれはオレがいけないんだけど。
で、次これか。
話すようになって、まだ日も浅いのに、こんな感じって。
オレ達って、きっと、相性というか、タイミングの相性は、最悪な気がする……。
(2022/2/5)
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