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第79話「楽しくない」*奏斗

 クラブに来て、しばらく時間が経った。 「――――……」  全然、楽しくない。  相手を決めてない時は男女問わず、そこそこ誰かと話したりして、わりといつもは楽しいのに。  四ノ宮のせいだ。  ――――……ていうか。  四ノ宮にあんな態度、取って、脱走してきた、自分のせい、だ。 「――――……」  心配してるの、分かってたから、今まで言わずに来たのに。   ――――……抱き付いてるとか。そんなわけないじゃん。  とか、なんか、ぷつ、と。  キレるって、ろくな事ないよな……。はー。  ――――……今頃どうしてるだろ。  さっきの女の子と、どっか行く事にしたかな。  ……それとも二次会、行ったかな。  落ち込んでたり、してないよな……。  ……どこに居てもいいけど、それが、気になって。  全く楽しめない。 「ユキくん、元気ない?」 「リクさん、こんばんは」  飲み物を持ってきてくれたリクさんに、一目で見抜かれる。 「……ちょっと、喧嘩?というか、言い合ってからここに来ちゃって」 「相手は? 彼氏はいないんだよね?」 「……後輩です」 「男の子?」  頷くと、ふ、と笑った。 「彼氏になりそうな子?」 「そういうんじゃないんですけど――――…… ゲイがバレてて」 「何でバレたの?」  クスクス笑われてしまう。 「男とホテル入るとこ見られて」 「うわ。……すごいバレ方だね。言い訳の余地もない」 「――――……そうですね」  苦笑い。 「……で、オレがこうやって、男探すの、多分良く思ってないみたいで」 「ふうんー?」 「――――……心配し過ぎって言うか……」 「へえ……?」 「お前に関係ないって、言ってきちゃったんですけど……」  はあ、とため息。  リクさんは、ふうん?と笑って。それから、少しだけ黙って。 「あのさ、心配じゃなくて、ヤキモチって事はないの?」 「?」 「ヤキモチ」 「誰がですか」  リクさんが何を言ってるのか分からなくて、普通に聞いたら、なんだかきょとんとされる。 「えーと。だから、後輩くんのは心配じゃなくて、ユキくんの相手にヤキモチ妬いてるとか?」  え。そういう意味? 全然浮かばなかった。 「無いですよ、あいつ、ゲイじゃないんで」 「気づいてないだけとかは?」 「……何にですか??」  さっきから、何だか全く意図が分からない。 「ゲイじゃなくても、ユキくんの事が好きだとか」 「――――……」  えーと。  ――――……無いな。無い。 「……ユキくん?」 「いや。びっくりすぎて、言葉が出なかっただけで」 「――――……無い?」 「無いと思います」  はっきりきっぱり答えたら、リクさんは、ぷ、と笑い出した。 「相当無いと思ってるんだね。全然質問の意味、分かってくれないし」 「だって無いですもん」   「そっか。今日は相手見つける気無いのかな?」 「――――……今んとこ、その気になんないかも。なんか、意地みたいに、ここ来てやるって思って、来たんですけど……」 「まあ、無理しなくていんじゃない?」 「うん……そうですよね」 「楽しんでね」 「はーい」  リクさんと別れて、飲み物持ったまま、隅っこに移動。  ――――……ほんと。今日はもう、いいかな。    ……四ノ宮に、電話……しようかなあ。  でもなあ。  ……あいつ、さすがに、さっきはすごいムカついたし、なぁ……。  ほんとに誰でもいいとか。  …………ほんとに、ひどいと思うんだけど。  ――――……でもなー……。  スマホを出して、四ノ宮の画面。  どうしようかな、と思っていた所で。 「こんばんは」  声をかけられて、視線を向けると、初めて見る奴。  まあ、顔はイイけど……。 「1人?」 「……うん」  ――――……やっぱりオレ、驚く程に乗り気じゃない。  今日は、ほんと、やめといた方が良さそうだなぁ……。

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