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第172話「行方不明説」*奏斗

 四ノ宮の笑顔がなんか怖い……。  これは、オレは何も悪くないはず。急に勝手に抱き締められてしまっただけだ。しかも離せと言ってたし。  ……と、なぜか言い訳をしたい気持ちになってる。 「大地、いい加減に、離せ、って」  大地の胸に手をついて、ようやく距離を取ったけれど、まだ至近距離に大地が居て、両腕を取られてる。 「だってやっと会えたんだし!」  今にも、もう一度抱き付かれそうなのを、何とか手をついて止める。そこでやっと腕を離させることに成功した。 「なあ、ユキ、帰る?」  一緒に居た皆が苦笑いしながら、オレにそう言うけど……。  目の前の大地、絶対離れそうにない……。四ノ宮も怖い……。 「……先、帰ってて。また、明日」  内心、すごく一緒に帰りたくてたまらないのだけれどそれは出さずに、何とか笑顔で伝えると、皆、じゃあなーと口々に言いながら、オレに背を向けた。 「目立ちまくりですけど、先輩」 「……分かってる」  四ノ宮がいつもの王子スマイルのままで、オレにそう言う。  四ノ宮の隣に居た女の子達も、何やらクスクス笑っている。あ、後ろに男も居るみたいだけど。  つか、左右、女子に囲まれたまま、オレに絡んでこなくていいのに。  そんな気持ちが浮かぶオレに、大地が笑いかける。 「オレ入学してからずっと、探してたんですよ。あんまり会えないから、ここに居るって話、ガセかと思ってたとこでした」  四ノ宮の微妙な雰囲気など知る由もない大地は、人懐っこい笑顔で、オレにそう言った。  あぁ、なんか……変わってないなあ。  会わなくなって、一年四ケ月くらいか。  髪染めたみたいで、茶髪になってるし、小さいけどピアスまでしてるし、制服とユニフォーム以外では、私服を見たのも珍しいし。  大分雰囲気は変わってるけど、笑顔は変わらないみたい。  まっすぐで、思った事は何でも言って、なんというか――――……オレに懐いてくっついてきた。周りの皆は、それを大型犬が超懐いてる、と表現してたっけ。でもなんか、ほんとにそんな感じだった。  ――――……連絡を断つのも、ちょっとだけ、気が引けた。ごめんな、と思ってた内の一人、ではある。 「……誰に聞いたの、オレがここだって」  ――――……誰にも言わずにここに来た。  オレの高校から、この大学に来たのは一人だったから、ラッキーだと思ってたのに。 「先輩の行った所、誰も知らないし、スマホ繋がらないし、行方不明説も流れてたけど、先輩の弟を知ってる奴が居て、そいつから、カナ先輩はスマホ故障で一人暮らしで大学行ってる、てとこまでは聞いてて」 「……」  ……行方不明説……。そうなってたのか……。 「先輩の担任に聞こうと思ったけど、すごい勢いで聞きに行ったせいか、本人に聞けよとか言われて隠されるし」  ……担任、ナイス。 「でもオレも受験だったし、終わったら探そうと思ってたら」 「探そうと思ってたの?」 「当たり前じゃん!」 「――――……」  勢いに負けて、黙る。 「そしたら、第一志望だったこの大学受かって、担任に報告に行った時にさ。よく受かったなーとか言われて……うちの高校からは二人目だな、って話になって。そうなんですか、て話してたら、先輩の名前がぽろっと出てきて……」 「――――……なるほど……」  良かった。……追いかけてきたのかと、一瞬思ってしまった。そんな訳ないか。  たまたま偶然で、ここに受かってたのか……。 「じゃあ大学行けば会えるだろうと思ったのに、全然会えないし。担任の勘違いだったんじゃないかと思い始めてたとこで――――……」 「…………なんつーか……」 「ん?」 「……お疲れ……」  何か、それしか出なかった。  笑ってしまうと、大地は、はー?と苦笑い。 「もーなんすか、それ」 「だって、何でオレなんか、そんな探すの」  大地はオレを見て、にっこり笑う。 「そんなの、カナ先輩に会いたかったからに決まってる」 「――――……」  ……ほんと、変わらない。  もう、高校に入学したてで、部活の先輩に憧れるとか、先輩大好きとか、そんな年でもないと思うのに。  ……んでもって。  なぜか立ち去らず、ずっと話を聞いてる四ノ宮が、怖い。

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