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第171話「なんか最悪」*奏斗

 その後、小太郎達も合流して、皆でたわいない話をする。  楽しい。  人と話すのも好きだし、友達と遊ぶのも好きだ。  高校までは、和希がそこにずっと居た。  転校する事になって、別れて、そこから突然和希が居なくなった。  最初は、ほんとに人と絡むこと自体辛くなってて――――……もう一生引きこもろうかと思った時もあったけど。  やっぱり、オレ、一人じゃ居たくなかった。 「ユキ、来週、どーやって行く?」 「ん?」  不意に言われた小太郎の言葉について行けずに、首を傾げる。 「ゼミ合宿。現地集合じゃん? 電車?」 「まだ考えてなかった」  そう答えると、小太郎がそうだよな、と笑う。 「翠と昨日どうしよっかって話しててさ」 「そうだね。どーしよっかなぁ……」  言いながら、ふと、四ノ宮が浮かんだ。  四ノ宮は、どうやって行くんだろ。  ――――……一年同士で行くかな。  まだ先だと思っていたけれど、もう来週の土日だった。  椿先生と、一年、二年、それから手伝いとして三年生で来れる人が参加する合宿。    本当は夏休みにやるゼミが多いけど、帰省する生徒も多いし、別にいつやったっていいんだし、と椿先生が決めたみたいで、去年も今頃だったらしい。今回オレは初参加。 「ちょっと考えとくね」  小太郎は、OKと言って、笑顔。    どうせ四ノ宮は一年同士で行くだろうけど。  ……万一、後でなんか言われても面倒だし。聞いてからにしよっかな。  そんな風に思ってしまう自分を少し不思議に思うけど、気になるからしょうがない。  その後、昼食時間が終わって、三限、四限の授業も終わった。  結局、誰とも夕飯の約束、してない。  ――――……多分、ここに居るメンバーだったら、ご飯食べにいこう、と言えば、絶対誰かは快諾してくれると思う。  ……結局行かなかったんだねと笑われるのもなんか癪だし、やっぱり行こうかな。……うん、そうしよう。  そう思って、皆に向けて、なあ、と声を出しかけた時。 「カナ先輩っ?」  後ろから腕を掴まれて、そう呼ばれた。  カナ先輩?  ――――……この大学に、オレを「カナ」で呼ぶ奴は、居ない。  四ノ宮が最近おかしくなった位で――――……。  誰?と思って、振り返ると、そいつは真正面からオレの顔を確認すると、めちゃくちゃ嬉しそうに笑った。 「やっぱりカナ先輩……!」 「――――……」 「やっと会えた」  こんな、帰る人の多いこの時間の正門前。  オレは、ガタイの良いそいつに、いきなり抱き締められた。  周りで色んな人がざわついた気がする。 「だ……いち??」 「そう! 覚えててくれてありがと、カナ先輩」  そんな台詞に、忘れる訳ないし、と思ってしまう。  いっこ下の、高校のバスケ部の後輩。  |江川 大地《えがわ だいち》。  背が高くて、バスケがうまくて、かなり頼りになるチームメイトだった。  ……なんかやたらオレに懐いてて、まあ……仲は良かったけど。  スマホを新しくしてからは、当然、こいつとも連絡を取ってなかった。 「……く、るしいってば……」  相変わらずでっかい……ていうか、もっとでかくなったような……。 「ユキー、大丈夫ー?」 「変質者なら助けるぞー」  一緒に居た友達らが苦笑いで聞いてくる。 「あー、ごめん……高校の後輩。……大地、ちょっと離れろよ」  そう言うのに、あまりにぎゅーぎゅー抱き締められて、半ば抵抗も諦めていると。 「――――……先輩?」  この。声。は。  うんざりしながら、大地の腕の中で、声の方を向く。  だー……。  四ノ宮……。 「……正門の真ん前で、何してんですか?」  にっこり、笑ってるけど。……怖い感じで。  ――――……よく分かんないけど。  なんか。最悪。そんな気がする。  

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