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第170話「うちゅー」*奏斗
二限がかなり早く終わった。
一緒に食堂に向かってきた友達は、購買に寄るから先に行ってて、と消えた。
食堂についてもまだ人もまばらで、空いてる。混む前にと食事を買って、空いてる席に座った。お茶を飲みながら、ぼーっと窓の外を眺める。
……週明けの朝、四ノ宮に呼ばれて一緒に朝食を食べて、それから渋々とだったけれど、一緒に登校した。
オレが嫌じゃない限り、ずっと一緒に居ると言った四ノ宮は、あれからほんとに近くに居る。
学校の間や帰りまではさすがに現れないけど、朝と学校までと、夕飯と、夜。
もう木曜日。この三日間、夜は四ノ宮と寝てる。
今更寝る位どうってことないじゃん、とか、意味の分からないことを言われて、最初は拒否するのだけれど、四ノ宮は退かない。
何もしないからと言われて、半信半疑で寝た月曜日、ほんとに何もされなくて、ただ、後ろから、包まれるだけ。
――――……絶対変だと思いながらも、いまさら寝る位いいかと思うのと。
……なんか、四ノ宮と寝てると……なんか……安心――――……。
「奏斗」
もう聞き慣れてしまった声に呼ばれて、確信と共に振り返ると、隣に座る、四ノ宮。
今よぎってたことを、頭から追い出す。
「……学校で呼ぶなよ」
「誰も居ないから良いじゃん」
「聞かれたら、おかしいだろ」
「居ないってば」
クスクス笑いながら、オレを見つめる。
「奏斗、何限?」
「……四限」
「オレ、五限。……待ってる?」
「待たない、帰る」
「じゃあ、夕飯は?」
「……誰かと食べに行くかも」
「ふーん……」
つまんなそうな顔の四ノ宮に、何故かちょっと罪悪感が浮かぶのが自分でも少し謎。
「……そんな毎日、ごちそうになるのも、ほんとどうかと思うし」
オレが、最もらしい理由を思いついて、そう言ったら、四ノ宮は、はー、とため息をついた。
「あのさ」
「……ん?」
「オレが奏斗と食べたいから誘ってて、一緒に食べてもらってるんだけど」
「――――……」
「そんな風に思う必要、全く無いから」
まっすぐ見つめられて、そんな風に言われて、もはや言葉が出てこない。
答えに困ってると、入り口の方でさっき別れた友達が手を振っているのが見えた。軽く手を振って返すと、四ノ宮が立ち上がった。
「今日、誰かと行くなら、そう入れといて」
オレは、辛うじて、それには頷いた。
すると、四ノ宮はクスっと笑って頷き返すと、オレから離れていった。
何となく目で追うと、少し離れた窓際の、どうやら一緒に来てたらしい子達のところに座った。
友達と居んのに、わざわざオレのとこ来なくていいのに。
「ユキ、ごめん、遅くなった」
「ん、別に……」
遅れてきた友達が、食事のトレイをオレの向かい側に置いて、腰かける。
……つか、普通、二人で座るなら隣じゃなくて、向かい側だよなー……。これが普通。
「ユキ、食べてて良かったのに」
「ん、でもそんなに待ってないし」
そう言いながら箸を持つ。
「今一緒に喋ってたのって、いっこ下の奴だろ?」
「……知ってんの?」
「小太郎としゃべってた。ゼミの後輩なんだろ?」
「……ん、そう」
「一回見たら覚える顔だよな」
「……まー、そう、だな」
まあ、確かに。
……目立つし、派手な顔、だよな……。
「ユキも仲良しなの?」
「も、って?」
「小太郎も仲良しっぽかったから。王子とか言って超褒めてたし」
「あー……小太郎はずっとそう言ってるね」
苦笑い。
「小太郎はって、何? ユキは違うのか?」
言葉を捕らえられて、う、と固まる。
「――――……王子っていうか……」
「うん、ていうか?」
「――――……うちゅーじん……」
「……ん?」
段々小さくなったオレの声に、首を傾げて聞き返す姿に、ううん、と首を振った。
「まあ……王子、かもね……」
見た目と、生まれはね。
執事が居るんだもん。場所が違えば、王子かも。
……宇宙人だけど。
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