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第169話「意味わかんなくても」*大翔

「ご馳走様でしたー」 「ね、食べた中でさ、具はどれが好き?」 「んー……全部美味しいよ?」  少し考えてから、そんな風に答える。  ああ、そう、と笑って奏斗を見つめると、じっと見つめ返してくる。少し後、ふいっと視線を逸らされて――――……コーヒーを口にする奏斗に不意に触れたくなる。  その気持ちのまま、そっと、奏斗の頬に手を伸ばした。  触れると、ぴた、と奏斗が止まった。 「……昨日、ほんとによく寝れた?」 「う、ん」  なんか困ってるの、分かるけど。  ――――……なんか可愛く思えて。  離す気にならない。 「くまできてるけど」  親指で軽く目の下をなぞると、む、と唇が少し尖る。 「……いつもくまあるし」 「――――……いつもはくま、ないよ」 「あるってば」  言いながら、オレの手を嫌がって、少し離れる。  その頬を摘まんで、ちょっと止める。 「……あのさぁ、奏斗」 「……何」 「――――……言っておきたいことがあるんだけど……」 「――――……」  ……いまだ、何でかは、よく分からない。  好きとか。――――……よく分かんねえし。  こんな、和希のことばっかりな人を好きなんて。すげえムカつくし。  …………でも。 「あのさあ。オレ」 「――――……?」 「奏斗が良いなら、ずっと居るから」 「――――……」  大きな瞳が、じっとオレを見つめる。  瞬きがやたら多い。 「――――……何、言ってんのか、分かんない。そんな事出来る訳ないじゃん」 「オレがそうするって言ってんだから、出来るでしょ」 「……ずっとって、何」 「――――……とにかく、ずっと。奏斗が良いなら」 「……彼女とかどーすんの」 「別に要らない」 「……結婚とか」 「しない」 「……会社継ぐんだろ」 「それは継ぐかも? ……でも継がないかもしれない」 「……お前、ゲイになんの?」 「――――……結果的にそうでも、別にいいよ」 「…………意味、分かんない」  片手でつまんでた頬を、両手で挟んで、引き寄せる。 「分かんなくても、本気で嫌って言われるまで離れないから、覚えといて」  オレだって、意味わかんねえけど。  ――――……絶対離れたくないし、一人で居させたくないし。  恋人でもねえ奴になんか、抱かせない。  ずっと居る。  オレと一緒に居る事が、この人の、普通になればいい。  そんな風に思いながら告げた言葉に、すぐに返って来た言葉は。 「オレ、今の――――……覚えないから」 「は?」  思わず、一言。その後、固まってしまう。 「だから、いつでも、無かったことにしていいよ」 「――――……」  ――――……そうくるか。  なんかもう。苦笑いしか浮かばない。 「……無かったことになんかしないから。まあいいや。すぐ信じなくてもいーよ。どうなったって、居るから」  そう言うと、何を思ってるんだか、むっとしてる奏斗を引き寄せて、キスした。  すると、顔を退かれて、少し、離される。 「……あのさぁ――――……自然とキスすんのも、やめ……」  至近距離のオレを軽く睨んでる奏斗の後頭部を引き寄せて、また唇を塞ぐ。 「っ――――……もー、だから……」 「……やめないよ」 「――――……」 「オレとキスして、オレに抱かれて、側に居てよ」 「――――……」 「……とりあえず、そのつもりで、オレは居るから」  奏斗は何も言わないけど、もう、心の声が見えるみたいだ。  意味わかんないって、連呼してそう。  ふ、と笑ってしまいながら、オレは、奏斗から手を離した。 「今日一限から?」 「……そーだけど」 「オレもだから。一緒に行こ」  そう言うと、また、は?って顔で見てくるけど。  ――――……そんなので今さら引き下がるはずもない。 「今まで一回も一緒に行ったこと、ないけど」  そう言ってくるけど。 「今まで一回も会わなかったからね。仕方ないじゃん。今はもう、仲良しなんだからさぁ、いいじゃん」 「……仲良しだっけ?」  じっと見てくる、奏斗。 「一緒にご飯食べて、一緒に過ごしてるんだから、仲良しでしょ」 「――――……は。もう。……ほんとに、意味わかんない」  そういう奏斗が。  ――――……呆れたように少し笑んだのが、なんだか、すごく嬉しい気がしてしまう。  たかが、少し、微笑んだだけなのに。    

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