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第168話「綻ぶ」*大翔

 朝、目覚めてすぐ、スマホを手に取った。  六時半か。――――……既読、ついてるけど、返事ない。  どうすっかなあ……。  ――――……って、決まってるか。  すぐにメッセージを入れる。 「おはよ。今から作るから。いつでも来ていいよ」  そう送ってしばらくそのまま見ていたけど、既読はすぐはつかない。  とりあえず作るか。来なくても、運んじまおう。  着替えて準備してから、朝食の準備を途中まで進めたところで、スマホが震えた。奏斗からの電話だった。 「もしもし?」 『あ。四ノ宮? ……おはよ』  なんか、少しの時間、離れただけなのに、声が嬉しいとか。  意味が分からない感情に支配されながら。 「おはようございます。……寝れました?」 『うん』 「もう来れますか?」 『つか……いいの?』 「オレ良くなかったら言わないんで」 『……』 「もう二人分用意途中なんで、来てくれないと困るんですけど」 『……分かった。行く。コーヒーは淹れた?』 「あ、まだです」  そう答えると、奏斗は『じゃあ淹れて持ってく』と言った。 「分かりました」 『じゃ後で』  電話が切れる。  ――――……コーヒー淹れて持ってく、か。  スマホをカウンターに置く自分の顔が、綻んでることに気付く。  コーヒーを淹れるのに少し時間かかるよな。  作り終えとこ。  来るって決まると、めちゃくちゃスピードアップしてるし、と、我ながら苦笑い。  ほとんど用意が終った所で、チャイムが鳴った。  急いで玄関に向かって、鍵を開けて、少しドアを開けた。 「――――……おはよ」  入ってきた奏斗が、オレを見上げて、そう言う。 「うん。おはよ。入って」 「ん。……お邪魔します」  遠慮がちに入ってくるので、「もうすぐ出来るから早くコーヒー注いで?」と促すと、うん、と笑う。  並べて置いたマグカップに、奏斗がコーヒーを注ぐ。 「いー匂い」 「――――……うん。そだね」  オレが言うと、ちら、とオレを見てから、唇だけで微かに笑う。 「良く眠れた?」  そう聞くと。 「うん」  と答えるけど。  なんか眠そう。 「……ほんとはオレが居なくて寂しかったんじゃないの?」 「寂しくないし」  少し睨まれて、ものすごく嫌そうにべー、と舌を出される。  ――――……なんか……ほんと、笑ってしまう。    オレは、出来た朝食の皿を二つ、テーブルに運んだ。 「奏斗、コーヒー、牛乳入れる?」 「うん」  冷蔵庫から牛乳を出して、奏斗のマグカップの隣に置くと、ゆっくり注いでる。その様子を見ながら考える。  ――――……奏斗って呼ぶのは、いいのかな。  もう呼んでいいって言った昨日は、終わったけど。  そう思いながら、でも余計なこと言って、呼ぶなって言われるのもやだしな。と、スルーしようと思った瞬間。    奏斗は隣に居るオレを、じっと見上げた。 「ずっとそれで呼ぶつもりな訳?」  なんかもう、今にもため息つきそうな、ちょっとムッとした表情。 「ん。そう」  まっすぐ見つめ返して頷くと、案の定、軽くため息をついた。  そのまま何も言わず、コーヒーを二つ持って、テーブルに向かう。  この週末、何回か奏斗が座った方に一つマグカップを置いて、向かい側に、コーヒーを置いてくるけど。  オレは奏斗の隣に座って、コーヒーを引き寄せた。 「……四人掛けで、二人で食べんのに、隣っておかしくない?」 「別に。カウンターで食べてると思えば?」 「カウンターは前に空席ないじゃん。変」 「細かいことはいーから。早く食べよ?」  オレがそう言って、頂きます、と言うと、奏斗もまた息を吐きながら、座った。 「――――……頂きます」 「どーぞ」  なんだかんだ言って隣に座ってる奏斗に、視線を流す。 「――――……」  ぱく、と食べた瞬間。うま、と、顔が綻ぶ。 「美味し?」 「うん」 「……中身は違うって言っても、さすがにホットサンドばっかりだからさ、次は別の何か作るよ」 「全然これでいいけど」  頬張りながら言う奏斗に、ふ、と笑んでしまう。 「そんな、美味しい?」 「うん」  そんなに美味しいって言われると。  こっちは、めちゃくちゃ作り甲斐があるんだよなー……。  美味しそうに食べてる姿を見ていたら、そんな風に思って、微笑んでしまう。

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