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第174話「普通に話せる」*奏斗
一緒に駅前に向かいながら、オレは、一番気になってる事を先に言った。
「あ、お前、今度抱き付いたら、ほんと怒るからな」
「だって、すげー感動だったんだもん、カナ先輩に会えて」
「……つか、ほんとに何で探してたの?」
「何でって、さっきも言ったけど。会いたいからに決まってるでしょ」
「――――……ほんと、お前って……」
んなことばっかり言ってるから、超懐いた大型犬、とか言われるんだよ。
もう、今はもっとデカくなってんてのに、言ってることがそのまんまって、どーなの。
「抱き付くのは禁止。良い?」
「ちぇー」
「ちぇーじゃないよ。正門前で抱きつくってほんと、大地、どーなってんの」
「あー、それはすみません。目立ちまくってましたよね」
「分かってんなら、すぐ離せよ」
おかげで四ノ宮に見つかったじゃんか……。
ため息を付きたい気分。
「だって、ほんとにマジで嬉しかったんですって」
「……もう落ち着いたから、大丈夫だよな?」
「まあ……」
頷く大地を見上げて、ん、とオレも頷いた。
――――……はー。
四ノ宮の最後の顔……。
……オレ、さっきから同じこと何度も考えてるけど……。
……別に悪い事は、してないよね。
オレから抱き付いたならまだしも。
抵抗してたよね、オレ、確か。
責められることもないよね。
……と思うんだけど、どうも、四ノ宮の事考えると、なぜか後ろめたいし。
はー。意味わかんね……。
「カナ先輩」
「んー?」
「さっきの、誰?」
「さっきのって? あ、さっき最後まで居た奴?」
「うん」
「んー……ゼミの後輩」
それが一番、正しい関係の名前だよな。
そう思って答えると。
「ふーん……」
言いながら、小さく何度か頷いてる大地に、首を傾げてしまう。
「何で? 知ってる?」
「いや、知らないですけど。見たことはある」
「どこで?」
「入学式の、新入生代表」
「え? そうなの?」
「うん、多分。あの顔、似た奴は居ないでしょ。オレ前の方に居たから、近くで見てたし」
「――――……へー」
はー、そんなことも、やってたんだ。へー。
……ほんと、嫌味だな。
あーそういえば小太郎とかが言ってたような言ってないような。
王子エピソードは要らないと思ってたから、あんまり真剣に聞いてなかった。
……ますます宇宙人だっつの。
「……彼氏じゃないですよね?」
「……は?」
「さっきの奴」
「……え? 彼氏? 誰が?」
「さっきの、あいつ」
「……誰の?」
あまりにオレが険しい顔で聞いたせいだと思うけど。
大地が可笑しそうに笑った。
「カナ先輩のって意味で聞いたんですけど、違いますね」
「……当たり前だろ」
何言ってんだ、ほんとに。
……彼氏って。
何それ。オレが男と可能性あるって知ってんの? って、そんな訳ないよな……?
頭の中で色んな思いが巡り巡っていると。
大地がクスクス笑った。
「だって、オレがカナ先輩に抱き付いてたら、奪われたから」
……あ、それでふざけて聞いただけか。何だ。……そりゃそうだよな。
「関係ないよ。オレが苦しがってたから助けてくれたんだろ。お前、でっかすぎ」
「先輩は全然変わんないですね」
「どういう意味?」
「褒めてるんですけど」
「そーか?」
そんな会話をしながら、駅前到着。自然と止まって、辺りを見回した。
「大地、何食べたい?」
「先輩は? 何が良いですか?」
「いいよ、お前の好きなので」
「あそこの定食屋行きます? 結構美味かったんで」
「うん、いーよ」
大地が指さしたビルの二階に向かって歩き始める。
「――――……元気でしたか? 先輩」
「うん。元気だったよ? 大地は? ……って元気そうだよな」
すくすく育ってるし、と追加しながら笑うと、大地も笑った。
――――……一年以上会ってなかったけど……。
敢えて関係を断った手前、すごく、気まずい気持ちでいたんだけど。
相手からしたら、ちょっと会えなかった、程度なのかな。
思ってたより、普通に話せるんだなあと思うと、嬉しい気もする。
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