172 / 516

第175話「昔の仲間」*奏斗

 定食屋は割と混んでた。まだ早い時間なのに。  白身魚のフライ定食を頼んで、一口、水を口にする。  ――――……目の前に、断ち切ったはずの過去の人たちの一人が座ってることに。どうも、違和感というか、ざわざわした感覚。  でも、学校のこととか、オレが卒業してからの部活のこととか、そういうのを聞きながら、食事をしている間に、大分、慣れてきた。  まあもともと、大地を断ち切りたかった訳じゃないし、な……。 「こないだね、バスケ部の同じ学年の奴らと、久しぶりにバスケしたんですよ」 「そっか。皆元気だった?」 「まあそんな経ってないし。でも皆体なまってて、大変でしたよ」 「まだ全然若いのに」  クスクス言いながら笑うと、大地は肩を竦めた。 「先輩だって、ばてるでしょ、もう。オレらより現役から離れてるし。余計じゃないですか?」 「んー……そうかもね」  言葉を濁して頷くと、大地は、オレをじっと見つめた。 「カナ先輩は、先輩達と会ってないんですか?」 「ん、まあ……」 「卒業してから一回も?」 「ん。……色々忙しくてさ。スマホも、壊れちゃったし。一人暮らしも慌ただしいし……」 「今、先輩のスマホ、オレとつなげてくれたら、バスケのグループに招待しますけど……どうしますか?」  まっすぐすぎる質問。何て断ったらいいか分からなくて、固まる。  繋げましょう、じゃなくて、どうしますかって言うんだから、少し何か、感づいているっぽい。……そういうの敏い奴だったと思う。  もう、誤魔化しても仕方ない。そのために来たんだし。 「あのさ、大地……」 「――――……」 「ごめん。あの――――……言い辛いんだけどさ」 「――――……」 「……事情があって、オレ、しばらく、昔の皆と距離、置きたいんだ」  もう、そのまんま言うしかない。  そう思って、言うと、大地はふー、と息をついた。 「まあ……なんとなく……」 「え?」 「……なんとなくは、何かあるのかなとは、思ってました」 「――――……ん」  まあ。そんな感じ、してたけど。 「スマホが壊れたって、連絡取りたければどうにか取れるだろうし。卒業以来誰とも会ってないってなると……やっぱりそっか、て感じですね」 「――――……ごめんな」 「別にオレに謝る事じゃないですけど……」  んー、と大地は、オレをまっすぐに見つめた。 「カナ先輩」 「ん?」 「……オレ、誰にも言わないから。先輩に会った事」 「――――……」 「だから、オレとは、連絡先交換してくれません?」 「――――……」 「絶対、誰にも言わない。約束、絶対守りますから。もしオレから漏れるような事が万一あったら、新しいスマホプレゼントしますから」 「……何だよそれ……」  苦笑いが浮かぶ。 「せっかく会えたのに、また偶然でしか会えないとか、嫌なんで」 「――――……」 「多分オレと先輩、取ってる授業とか教室とかが、かぶらないんですよ、きっと。だって、ずっとオレ、何となく探しながら居たのに、こんなに会えなかったんだからさ」  なんか、一生懸命言ってくる大地に、ふ、と息をつく。 「分かった。いいよ。絶対バラさない約束を守ってくれるなら。……別に大地と離れたくて、そうしてた訳じゃないし……」  大地は頷きながらスマホを出してくる。連絡先を交換すると、大地は、まっすぐにオレを見つめた。 「……カナ先輩はさ――――……誰と、離れたかったんですか?」 「……それは、内緒でいい?」  少し笑って見せると、大地は、少し頷いてから、黙った。 「先輩」 「ん?」 「良く分かんないけど……皆、先輩に会いたがってるし」 「……ん」 「事情が変わったら、また皆でバスケしましょうね」 「ん。……ありがと」  まっすぐな視線に頷いて、ふっと笑みがこぼれた。  ……いつか。  和希に会っても平気で、一緒にバスケできたりする日が、くるのかなあ。  ……二年以上たった今でもまだ全然……。  ほんと、無理な気しかしないけど。

ともだちにシェアしよう!