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第176話「食べ物作戦」*奏斗

「ね、先輩って、料理できるんですか?」  急に変わった話題について行けず、首を傾げる。 「料理?」 「一人暮らしだから少しはしてますよね?」 「……できる……うーん、まあ食べれる、かな」 「はは。何それ、まずいんですか?」 「失礼だなー。まずくはない、と思うよ。でも……」  ……四ノ宮のご飯食べてると、なんか、すごい美味しいからな。  あれに比べると、なんか、うーん、て思ってしまうんだけど。 「でも?」 「いや。まあ、なんとか食べれるよ。一応一年ちょっとは、自炊してるし」 「じゃあ、今度何か作ってくださいよ」 「えー……そんなごちそうするほど、美味しくないよ?」 「良いですよ、先輩が作ってくれるなら、なんでも」 「またそういうこと、言って――――……あ」  テーブルに置いていたスマホが震え出して、画面を見ると、四ノ宮だった。  よく分かんないけど、さっきの別れ方を考えると、出ないという選択肢はない気がする……。 「ごめん、ちょっと出てくる。すぐ戻るから」 「はい」  オレは、立ち上がって、通話ボタンを押しながら、出口へと向かった。  店を出たところ、階段の脇に立って、「もしもし」と言うと。 『今どこですか』 「……駅前の定食屋さん」 『誰と』 「さっきの、後輩」 『――――……』  ……舌打ちが。聞こえたような気がする。ちょっと久しぶりなような。 「ていうか、四ノ宮は? 今どこ?」 『授業終わったから、今駅に向かってます』 「そっか」  ……スマホで時計を確認すると。  ――――……終わった直後に掛けてきたっぽいな……。 『もう食べ終わりました?』 「あ、うん」 『じゃあもう、別れてきてください』  ……もーなんか。  ――――……声が怖いんだよ、お前。  ……ていうか、オレが誰かと食事してたって、お前にそんな事言われる筋合いは、ないと思うんだけど。  ……でもさっきの感じだと、何となく、とりあえず今日の所は帰った方が良い気がしてしまうのは。……一体何なんだ。  ……ほんと、何なんだよ。  出来たら、四ノ宮に、会いたくないけど……。  この機嫌の悪いのが収まらないと……ほんと、会いたくない。  ――――……あ。そうだ。   「四ノ宮、あのさ――――……今いる定食屋なんだけどさ……」 『はい?』 「お弁当持ち帰りしてるみたいでさ」 『はい』 「……いつものお礼に買っていくけど」  ちょっとご飯で、ご機嫌を取ってみることにした。  ……四ノ宮は料理作るの苦じゃなさそうだから、効かないかなと思ったけれど。 『――――……別に、お礼とか……いらないんですけど』  あ。……少し。声。緩くなった、かな?  チャンス。 「何が食べたい? フライとかとんかつとか、ハンバーグとか、生姜焼きとか、いろいあったよ」 『……生姜焼き』 「ん、分かった」 『どこの定食屋?』 「駅のロータリーの、下にカラオケが入ってるビルの二階」 『隣のコンビニに居るから。別れたら来て』 「――――……分かった。行くからさー」 『――――……』 「……怒んなよ?」  言うと、四ノ宮、しばらく答えてくれないけど。 「怒るなら、オレ、一人で帰るから」 『……分かりました』 「……うん」 『つかオレ――――……別に、奏斗に怒ってる訳じゃないですけど』 「――――……」  ……ふうん? そうなの?   そんな怖い声で?  思うけど言わないでおくと。 『じゃあ後で』  その声に頷くと、電話が切れた。  ……あいつ、ほんと、オレには何も隠さなくなってる気がする。  まあその方がいいとは思ってるけど。  ……たまに怖いし。はー。  そんな事を思いながら店に戻って、店員さんに持ち帰りを注文してから、席に戻った。

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