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第177話「安心?」*奏斗

「ごめん、遅くなって」 「いえ全然」  椅子に座って、窓から下を何となく覗く。  四ノ宮あっちから来るかな。とりあえず、お弁当が出来たら帰ろう。  その事を言おうと、大地に視線を戻したら。  大地がすごくまっすぐ、オレを見ていた。 「……どした?」 「先輩って、カズ先輩に会ってますか?」 「――――……」  もうなんか。心臓が、痛い。けど。     ……落ち着け。  ……オレとあいつが仲良かったことは、皆が知ってる。  だから、聞いてるだけだし。 「……転校してからは会ってないよ」 「最近、こっちに帰ってきたの知ってますか?」 「……うん、聞いた」 「あ、聞いたんですね」 「弟も知ってんの、幼馴染だから。地元で会ったんだって」 「そうなんですね……」  コップを煽って、残っていた氷を口にした。 「カズ先輩が、カナ先輩に会いたがってるのは? 知ってますか?」 「――――……連絡先、弟に聞いたのは知ってる」 「オレ、こないだ、部活の集まりで、久しぶりに会ったんですけど……」  オレは、もう、それ以上は、聞きたくなくて。  氷がなくなると同時に。 「大地、あのさ」  断ち切るみたいに、名前を呼んだ。  「ごめん……もう、言うけど……オレ、あいつに会いたくなくて」 「――――……」 「オレの事も、あいつには言わないでほしいんだけど……」  中途半端に隠しても、良くないだろうと思ったから、そう言い切って、大地を見つめていると。少しして、大地は静かに頷いた。 「……分かりました。内緒にしますから」 「……うん」  真剣に頷いてる大地の態度に、ほっとして、ごめん、と呟いた。 「いえ。……同じ学年の奴にも言わないから。大丈夫ですよ」 「ごめんな? ありがと」  そう言った時、店員が来て、弁当を置いて行った。  大地が少し驚いたような顔をする。 「? 持ち帰るんですか?」 「うん」 「先輩、足りなかった?」 「まさか。……最近世話になってる奴に、お礼」 「なるほど。じゃあ、冷めないうちに帰ります?」 「まあどうせ帰るまでには冷めちゃうけど……うん、今日は帰ろうかな」  スムーズに帰れそうで、意外だな、と思ってしまった。  まだ話しましょうよー、と言われるかなと思ってた自分に気付いて苦笑い。  財布を出した大地に「あ、オレが払うよ。今日は奢り」と言うと、少し考えてから、大地は笑った。 「じゃあ次はオレが奢りますね」 「ん」  頷いて、立ち上がる。  会計をすませて、階段を下りた。 「先輩ちはこの近くなんですか?」 「うん。歩いて帰れる」 「オレ、電車なので」 「うん」  改札まで行く、と一緒に歩き出す。 「先輩」 「ん」 「電話とかかけて良いですか?」 「別にいーけど」  笑いながら答えると、大地は嬉しそうに笑った。 「もうほんと――――……元気そうで良かったです」 「何それ。どんだけ心配してたの? 大丈夫だから、安心して」 「ですね」  大地はクスクス笑って、オレを見下ろす。 「にしてもどんだけでかくなってんの。いつまで成長期なんだよ?」  見上げると、大地はんー、と自分の頭に手を置いた。 「どうだろー? 先輩は止まった?」 「……多分止まった」  ムッとして答えると、大地は可笑しそうに笑う。 「先輩は可愛いからそれでいいと思います」 「……先輩に可愛いとか言うな」  はー、とため息。  駅の改札についた所で、大地を見上げる。  何か最近、こーやってデカい奴を見上げてばっかり、と、四ノ宮を思い出す。 「じゃあね、先輩。今日会えてよかったです」 「うん。そだな」 「またすぐ連絡しますから」 「はいはい」 「ちゃんと出てくださいよ」 「はいはい、大丈夫だって」  手を振って、大地を見送る。  姿が見えなくなってから踵を返して歩き出して、四ノ宮が居ると言ったコンビニに向かう。  大地に会った時は、ちょっと焦って……やばい、と思ったけど。和希に関係ない所で会うなら、別に、こんな感じで済むのか。  ――――……あーでも……。  連絡先が、伝わるリスクは、避けたい。  今までは、間違っても会わないようにとだけ思ってた。  断り続けるのも悪いから、スマホが壊れたことにして、物理的に誰からも連絡が来ないようにした。  でも、和希が真斗に連絡先を聞いたと聞いてからは、また話が変わってきてる。  間違って、居る場所で再会のリスクだけじゃなくて……連絡したがってる、とか……。  ……なんで。  連絡したいんだろう、オレに。  ――――……幼馴染として、会いたい、とか……?  ……絶対、そんなの無理だし。  歩きながら、唇を少し、噛む。  やっぱり今のまま。  大地は同じ大学だから仕方ない。連絡先、多分あいつはまわしたりしないと思うし。――――……このまま、行こ……。  コンビニに辿り着いて、入ろうとした瞬間。 「奏斗」  ぐい、と腕を引かれた。  え、と見上げると、四ノ宮だった。 「あれ……しの、みや……?」 「大丈夫?」 「え。何が? ……外で待ってたの?」 「そろそろ来るかなと思って外に出たとこだったんだけど――――……目の前に居るオレを素通りするって、どーいうこと?」  呆れたように言いながら笑って、オレの腕を離す。 「――――……」  ……なんか、よく分からない。  すごく、嫌な気分、だったのに。  ……なんかオレ今――――…… 顔見て、ちょっと、ホッとした?

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