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第178話「依存」*奏斗

「今ほんとにオレのこと、見えてなかったの?」 「うん。ぼーっとしてた」 「あのさ、ちゃんと周り見て歩いてくださいよ。変な人が居ないかとかも、ちゃんと見て?」 「何言ってんの?」 「目ぇつけられたら困るでしょ」 「……オレ、ほんと、男なんだけど」  そう言いながら、四ノ宮を見上げる。  ……つか、こいつら、ほんとにでっかいな。 「……何でそんな背ぇでっかいの?」 「え?」 「何食って生きてきたの?」 「何食ってって……普通の物食べてましたけど……」 「絶対嘘。すごい栄養あるもん、食べてたのかな」 「――――……」  クッと笑いながら、四ノ宮が、オレの腕を引いた。 「まあとにかく、帰りましょう」 「言われなくても帰るけど」  四ノ宮の隣に並んで、歩き出す。 「生姜焼きの匂い、しますね」 「え、そう?」 「うん」 「今日は、四ノ宮、作んなくて済むね」  そう言ったら、四ノ宮は、じっとオレを見つめる。 「オレ、作るの全く苦じゃないけど?」 「……あ、やっぱり?」 「やっぱりって?」 「なんとなくそんな気がしたから」  ふ、と笑ってしまうと。 「奏斗が美味そうに食べるから、ほんと全然良いんですけど。つか、むしろ今日食べさせられなくて、少し嫌かも」 「――――……」  さすがにそのセリフには、びっくり。 「……オレを餌付けして、どーしようとしてんの?」  半分本気でそう聞いたら。四宮は、ははっと笑った。 「……そうですね。どーしようかな」  なんて楽しそうに言ってる。  ……あ、そういえば、怒ってるのは、解除してから、来てくれたんだな。  良かった。 と、思っていたら。 「とりあえず、正門前で抱きしめられる、とかは、やめさせたいですね」  あ。  ……やっぱりまだ怒ってる。  約束が違うじゃんか―。  見上げると、でもにっこり笑ってる。  ――――……っ。  にっこりしてたって、怒ってるのと変わんないんだからな!  むしろ、にっこりのが怖いんだよ!  ――――……心の中で言いながら、ジト目で、でっかい男を、見上げる。 「……さっきの奴って、高校の後輩?」 「うん」 「部活とか?」 「そう」 「知らなかったの? 大学に居るの」 「うん」  短く答えていくと、ふーん、と言って、少し黙る。 「奏斗のこと、すっげー好きそうだったけど」 「……まあ。懐いてくれてた感はあるけど……」  そう言うと、四ノ宮は、ふーとため息をついた。 「――――……つか、腹へったなー……」  急に話題を変えてそう言う。  何となくそれ以上突っ込まれたくなかったから、ほっとする。 「うん。帰ったら、ゆっくり食べて」 「何その言い方。うちに来ないの?」 「うん。すぐシャワー浴びたいし。なんか疲れたからゆっくりする」 「うちでゆっくりしなよ。シャワー浴びたら、来て」 「――――……」  四ノ宮の言葉に、少し先の地面に視線を落とす。  ――――……なんだかな。  ……あんまり、依存、したくないんだよな……。  ここ数日、四ノ宮に頼り過ぎというか。なんか、やっぱりちょっとおかしいし。  さっき、四ノ宮の顔を見て安心したとか。  ……絶対ヤバい気がする。  誰かにもう執着はしないって。そう決めたのに。だから、一回限りって決めてんのに。  ――――……このまま、四ノ宮が居ることが当たり前になると、困る。 「オレ、今日は一人がいい」 「またそれ? ……あのさあ、奏斗」 「――――……」  呆れたように言う四ノ宮を見上げると。 「一人で居ても楽しくないでしょ?」 「……ゆっくりできるし」 「オレに寄っかかってゆっくりしてればいーじゃん」 「……それ、なんか、色々葛藤があるから。心からゆっくりしてないし……」 「何、葛藤って」 「……オレ、なにしてんだろっていう葛藤……」  もう何て言っていいかよく分からず、そこで言葉が途切れる。  マンションについて、エレベーターに乗って、無言のまま、階に着く。部屋の前で、オレは四ノ宮にお弁当の袋を渡した。 「ん。食べて」  ありがと、と言ってそれを受け取って、四ノ宮はまっすぐにオレを見つめた。 「オレもシャワー浴びとくからさ。弁当一人で食べんのつまんないし。来てね?」 「――――……」  ――――……一人で食べるのとか。全然平気そうな奴なくせに……。  断りにくいとこ、ついてくるっていうか……。 ズルいんだよな……。 「分かんない。そのまま寝ちゃうかも」 「待ってるからね」  ちら、と四ノ宮を見て視線を合わせて。もう、何も言わずに、そのまま自分の部屋に入った。    閉めたドアにカギをかけて、寄りかかり。  なんとなく。ため息を、ついてしまう。

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