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第252話「当たり前に」*大翔

 昼食を終えてから、奏斗と観覧車に並んだ。  絶叫系とかよりは混んでて、しばらく家族連れやカップルに混ざって列に並ぶ。 「小さい頃ね、真斗は観覧車が怖くてさ」 「うん。そうなの? 意外」 「オレが小学生で、真斗が幼稚園とかの頃ね」 「ああ、そんな小さい頃」 「真斗が、ひーんて顔してるのをオレが、抱っこして、周りが見えないようにしてあげてる写真があるんだよね」 「はは。 可愛いね」 「でも観覧車に乗ってるのに、下向いてて、オレが抱き締めてて、ほんとおかしな写真なんだけど……」  クスクス奏斗が笑う。 「小さい頃はオレが守ってたんだけどなあ……」 「けど、何?」 「最近は心配されてる気がしてて」  苦笑いの奏斗を、まっすぐ見下ろす。  奏斗の言葉は、たまに、自分のことをしょうがないなと言う内容のものが入ってくるけど。真斗に対しての言葉にも、それが入る気がする。 「――――……あのさ」 「ん?」 「真斗が心配してんのは、奏斗のことが大好きだからだし」 「……」 「そうやって、ずっと守ってきた兄貴が好きだから、心配してるんだよね」 「……」 「心配させてんのが嫌なら、心配させないようになればいいと思うけど。心配させてるから悪いってことはない、と思うけど」 「――――……」 「いいじゃん。弟にそんなに心配してもらえる位、好かれてる兄貴なんだって、喜んでなよ」  奏斗が、何とも言えない顔で、オレを見てるけど。  ……まあ、思うのはそんなとこだけど。 「オレ、姉貴居るけど、まあ気ぃ強いし、顎で使われてた気がするから、心配はしない。まあオレが心配しなくても強いから全然平気だろうし」  少し真面目に言いすぎて恥ずかしくなってきたので、そんなことを追加で言ったら。奏斗は、ふ、と微笑んだ。 「だから弟感、すごいんだね」 「え」  ちょっと……いや、かなり嫌だけど。 「弟感って何。そんなもの、ある?」 「……ん、ある」 「マジで?」  ……何それ、弟感って。  すげえやなんだけど。 「――――……何だろ。さっさと動くっていうか。持ってきてーとか、そういうの言われなれてるっていうか? 弟って、そんなイメージあるんだよね。一人っ子とか、兄貴は、動かないんだよね、そういうの。分かる?」 「……分からなくはないけど。弟感とか、ちょっと嫌」 「んなこと言ったって、感覚だからしょうがないじゃん?」    ふふ、と奏斗は笑ってるけど。  ……マジで、嫌。  もう、何か取ってくるとか、動くのやめよう。  つか、よく考えたら、オレは奏斗の世話やきすぎ? 取ってくる、持ってくる、あれこれしすぎかも?  なにこれ、姉貴のせい? と、突然姉貴への怒りが浮かんだり、よく分からない感情が忙しい。  ……どっしり座ってりゃいい訳? 分かんねえな。  そんなことを思いながら、しばし無言でいるオレを奏斗が見上げてくる。じっとオレの顔を見た後。 「……弟感はあるけど。……それって優しいってことだから。別に……嫌な訳じゃ……」 「――――……」  ……オレ今変な顔してた?  なんか、気を使わせてんのかなとも思ったけど。  なんか少し照れてるっぽい言い方に、一秒で、落ちてた気が上向く。  ああもう。ほんとに可愛いな……。 「どうぞー」  何か奏斗に言う前に、係員に呼ばれ、観覧車に乗り込む。 「すっごい、これ。ハートがいっぱい。ていうか、これ、男同士で乗る想定されてないのかな」  めちゃくちゃ可愛い観覧車の内装に、奏斗が面白そうに笑ってる。 「まあ並んでるの見ても、カップルと家族連れが多かったですもんね」 「だからってここまで可愛いと、恥ずかしいよね」  クスクス笑いながら、色んな所の可愛い装飾を見て、あれこれ言いながら、楽しそうに笑っている。 「――――……」  ふと、外を見ると。下からはもう見えず、前後からは、ちょうど死角。  思った瞬間に、奏斗の腕を引いた。 「え」 「――――……」  びっくりして見開かれた瞳を見つめながら、唇を重ねる。  すぐ外すつもりだったのに、外せなくて、少し深くキスすると。 「見え……るっつの……!」  怒った顔した奏斗に、離される。  ――――……顔、赤。 「ごめんね。……つい」 「……ついじゃねーし」  もう。油断も隙もないっていうか、もう……。  とか、全部は聞こえないような声で、ぶつぶつずっと言ってる。  ふ、と笑ってしまうと、笑うな、と怒られたけど。  ……気づいてるかなあ、この人。  何でキスすんの、じゃなくて。  誰かに見られるっていう文句しか、言ってないこと。   敢えて、言わねえけど。  ……意識してない文句が、それだけって。  オレは、嬉しいし。  ――――……もっともっと、オレにキスされるの、当たり前になればいい。  

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