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第251話「可愛いとしか」*大翔

「四ノ宮はさ」 「ん?」 「遊園地とか、よくデートに来たの?」 「……いや。ほとんど来たことないな」 「え。じゃあ何で今日来たの? 好きだからかと思った」 「んー? まあ日常ぽくない空間の方が楽しめるかなと思ったから」  そう言うと、食べながら、んーと考えてる奏斗は、一口飲み込むと。 「もしかして、四ノ宮は実はあんまり好きじゃないの?」  と、聞いてきた。 「……待ち時間とかさ、暇だと思うし。退屈かなーと思ってたんだけど」 「だけど?」 「奏斗と居るのは、すごく楽しいよ」 「――――……」 「誰よりも楽しそうだから、可愛いし」  オレが、ぷ、と笑ってしまうと、奏斗は途端にムッとした。 「バカにしてるよね?」 「してないって。……ほんと、可愛いと思ってるよ」 「絶対バカにしてる……」  本気で可愛いって言ってんのに、むむむむ、と眉を顰めたまま、ぱくぱくご飯を詰め込んでいる。  ……まあ、そんな姿も、可愛いと思ってしまうんだけど。  なんでこんなに可愛いかなぁ……? 「バカにして可愛いなんて言わないけどね、オレ」  クスクス笑うけど、ぱくぱく食べ続けてるし。  ……隣の女子は聞き耳立ててるけど、この店、音楽結構うるさくて、あんまり聞こえてはいなそう。うるさい分、オレが少し奏斗に近づいて話してるのも、女子たちには余計興味津々らしいが。 「四ノ宮」 「ん?」 「可愛いって次言ったら……」 「ん」 「もうしゃべんない」 「――――……」  なんだそれ。ムクれた上でそんなこと言われると。  ……可愛いなと思ってしまうけど。  いやいや、絶対言うけどね。そう思いながらも、ここではあえてそれ以上は言わなくてもいいかなと思い、しばらく無言で食事を続けた。 「食べ終えたら、何乗りに行きたいの?」  そう聞くと、奏斗は、んー、と考えた後。 「食べてすぐ、オレが乗りたいもの乗ったら、吐く自信がある」 「何その自信……」  苦笑しつつ、食事を終えたオレは、奏斗の横のパンフレットを手に取った。 「ちょっと見せて」 「うん。ていうか、四ノ宮、パンフ初めて見たでしょ」 「つか奏斗がずっと見てるから、見る必要なかったし」  笑いながらパンフレットを開いて、何か穏やかそうなアトラクションがないか、探してみる。 「……気持ち悪くならないような乗り物がいいよね?」 「うん」  もぐもぐ食べながら、頷いてる。 「……関係ないけどさ」 「うん?」 「……奏斗の食べ方って、可愛いよね」 「ぐ」  ……ごほごほごほ。  すっかりむせて、げほげほ咳き込んでる。 「こ、んど言ったらしゃべんないって……っ」 「食べ方の話だから、いいじゃん?」 「……っ一緒だってば」  何だかなぁ。リスとか。そんな感じに見える。  ……二十歳近い男がリスってなぜ。そう思うのだけれど、可愛いと思って浮かんでしまうものは、どうしようもない。  すっかりオレから顔を背けて、ご飯を食べてるが。  面白いので放っておく。 「……あ、観覧車は?」 「観覧車、好きだけど……夜乗りたいなぁ」 「ん? 何で?」 「夜、上から景色見るの、綺麗だからさ」 「あぁ、なるほど……」  そう返事をしながらも。  ……この人、当然のように夜まで居るつもりなんだな、ということに。  笑ってしまいそうになる。 「……じゃあさ」 「何笑ってンの?」  あ。笑ってた。突っ込まれて、結局自分が笑ってたことに気づいて、苦笑しながらも。 「昼も乗って、夜も乗るってのは?」 「…………」 「昼は昼で、上から見るの、楽しいんじゃない?」  そう言うと。 「うん。そーしよっか」  ふわ、と笑う。  ――――……だから。  ほんとに、可愛いなあ。もう。  だめだな、オレ。この人を可愛いって認めてから。  可愛いとしか、見られなくなってる。

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