250 / 510

第254話「似てる?」*大翔

 色々乗りながら園内を回っていると、大きなショップに通りかかった。 「おみやげだよね、見てみよう?」 「ん、いいよ」  中に入ると、めちゃくちゃ広くて、これでもかとグッズが並んでいる。 「うわーすご。どんだけ商品、あるんだろうね」  感心したように言いながら、端から歩いて見ていく。 「この変な犬みたいなのさぁ、ここのキャラクターだよね」 「ですね、園にもいっぱい居ますしね。……犬かな?」 「犬みたいだけど……犬ではないかも。つか、憎めない顔ー」  ぬいぐるみをひとつ、ひょいと抱いて、ほっぺをぶにぶにつぶしだした。 「やっわらかー、このぬいぐるみ」  あはは、と奏斗が笑い出して、一人でウケてる。 「そういうの好き?」 「え。好きっていうか……触ってみ?」  そう言われて、ぬいぐるみに触れてみると、なんだかすごくしっとりした感触で、確かにものすごく柔らかい。 「あぁ、気持ちいいね」 「だろ? なんかこの顔も、憎めないし……」  クスクス笑いながら、ぶにぶにつぶして、楽しそうにしてる。 「……あ」  変な声を出して、奏斗が固まってから、そのまま何も言わず止まってる。 「ん? どしたの?」 「んー……怒んない?」 「え? 何で?」  いきなり「怒んない?」ってどういうこと? 「オレ怒んないと思うけど?」  そう答えると、奏斗はクスクス笑いながら、オレを見上げる。 「なんか似てる」  ぷぷ、と吹き出しながら、そう言う。 「……は? オレに?」 「うん。なんだろ……ふてぶてしい目とか。何か言いたげな口元とか?」  ……確かに、可愛いっていう見た目のキャラクターじゃないし。なんだかちょっとおもしろい顔した犬……もどきだけど。 「……似てます?」  そうかなあと、じっと見つめてみるけれど。 「似てないと思うけど……」  ……奏斗にとって、オレがこういうイメージってこと? ふてぶてしいって……。  と、思うと。かなり可笑しい。 「……怒ってない?」 「怒んないよ、そんなんで」  ふ、と笑ってしまう。 「奏斗はこれがオレに似てるって思うんだなと思うと、ちょっと笑えるけど」 「……何か似てるって、咄嗟に思った」  そんな風に言いながら、そのぬいぐるみの頬や頭をグリグリつぶしてる。 「ちょっと待って、似てるって言いながらそんなにつぶされると、オレがつぶされてるみたいで、どうかなって思うんだけど」  呆れて笑いながらそう言うと、奏斗はあは、と笑い出した。 「それ、楽しいかも」 「――――……」 「四ノ宮だと思って、つぶすの」  可笑しくてしょうがない、みたいな感じで笑っているのを見ていると。  ……なんかほんとに可愛く思えて。  このままずっと、笑ってたらいいなと、思ってしまう。 「あ。怒った?」 「だから、そんなので怒らないって」 「そう?」  クスクス笑いながら、ぬいぐるみを棚に戻して、奏斗はまた歩き出す。 「あとで、真斗にお菓子買っていくから、帰り寄っていい?」 「いいよ。もうなんでもどこでも付き合うってば。あれだよね、出口の手前にも大きいショップあったよ」 「じゃあそこで最後に買えばいっか。四ノ宮は誰かにおみやげ買う?」  ……おみやげ。遊園地の。 「オレが遊園地に行ったって言って、誰かにおみやげ持ってくのとか……」 「ん?」 「……あると思う?」 「…………あってもいい、んじゃないかなあ……」  少しの沈黙の後、クスクス笑いながら、そんな風に言ってる。 「無いと思ってるよね?」 「そんなことないよー、あってもいいと思うよー。さ。ジェットコースター乗りにいこー」  棒読みみたいに言いながら、店の出口に向かって歩き始める。  絶対無いと思ってるな。……まあ、無いけど。 「ん? ていうか、またジェットコースター乗るの?」 「うんー」 「何回目だっけ?」 「んー……分かんない」 「乗る限界の回数とかないのかな?」 「何それ」 「これ以上乗ったら、気持ち悪くなりますとか」  言うと奏斗、プッと吹き出した。 「無いよ、そんなの。早く行こ?」 「はいはい」  渋々頷きながらも、その笑顔は――――……やっぱり、良いなと。  思う。

ともだちにシェアしよう!