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第255話「無性に」*大翔

 いくつも乗ってから、また休憩。  ……激しいのばっか、乗りすぎなんだよな。良かったオレ、平気な奴で。なんて思いながら、コーヒーを飲みながら目の前の奏斗を見つめる。 「あ、うまい」  何だかひたすら可愛く飾られたチョコアイスのミニパフェみたいのを食べながら、奏斗が笑う。 「それはよかった」  そう言うと「食べる?」と聞かれるが、「全部食べな?」と答えた。 「じゃあ食べちゃうよ」  ニコニコ笑いながら、もこもこ食べてる姿は、ほんと可愛い。 「奏斗、パンフ見せて」 「ん」 「――――……」  テーブルに置いて、端から見ていく。  小さい子向けのものをのぞけば、もうほとんど乗ってきたような気がする。 「完全制覇するつもりで乗ってる?」 「うん」 「あ、そ」  クスクス笑いながら、順番に乗り物を見ていたら、ふと、気付いた。 「お化け屋敷あるけど?」 「…………」 「そこは行かないの?」 「…………」 「二つあるよ、ここ。歩いて進むやつと、乗り物のと。二つもあるんだから、面白いんじゃないのかな」 「………………」  そこまで話してて、ふと、気付く。  返事ないけど。もしかして。 「え、苦手とか? まさか、怖い、とか?」 「……別に」 「――――……オレ、お化け屋敷好きなんですよねぇ」  ……特別好きな訳でもないけど。  そう言ってみる。 「一緒に行かない?」 「…………おいしいなぁ、これ」 「ね、奏斗」 「……下の方に入ってる、チョコフレークもなかなか……」 「入ろ、一緒に」 「…………」  奏斗はついに黙ってしまって、むう、と口を尖らせた。 「……何で、わざわざ怖い思いしに行かなきゃいけない訳?」 「やっぱり怖いの?」 「……つか、怖くねーの?」  むむむむ、とものすごく嫌そうな顔で奏斗が言う。  笑ってしまいそうなのをこらえながら。 「一緒に入ろうよ、奏斗」 「………………」  すごく嫌そう。  ……引いとくか? そう思った時。 「……どうしても無理だったら、途中退場口から出ていい?」  そんな風に聞くから、ついつい笑いながら、良いよと答えると、またムッとして、オレを睨む。 「バカにすんなら、入らない」 「いやいや。バカにしてるわけじゃないよ。可愛いなあと思って」 「やっぱりバカにしてるじゃん!」  むむむー、という顔で睨んだ後、アイスを口に入れてしばらく考えてから。 「……置いてかない?」 「え?」 「置いてかないなら、いいよ」 「……何それ? 置いてかれたこと、あんの?」 「中学ん時。怖いからやだって言ってんのにさぁ……入ってしばらくしたら、置いて行かれてさー」 「……どうしたの、それで」 「硬直して動けなくなったら、お化けの人に心配されて、途中出口まで連れて行ってもらった」 「――――……」  ものすごく嫌そうな顔をしているけど、ついつい笑ってしまうと、奏斗はオレをまた睨む。 「ていうか、心配されたお化けは、あれだからね。お岩さんみたいなやつ! めっちゃ怖いっての! 心配してくれるけど、振り向かないでって思ってたし」  何だか容易に想像できて、もうほんと笑ってしまいたいのだけれど。  しかも、中学ん時のこの人とか、絶対可愛いだろうし。半泣きだったのかなあなんて思うと、見たくてしょうがない。 「あれから入ってないんだよね、お化け屋敷」 「あー……ちょっとトラウマになってる?」 「……そう言うのかな。……まあ言うのかも」 「そんな程度のトラウマは、さっさと解消しょ。オレ、絶対、置いてかないから。出口まで行けたってなれば、解消するよね?」 「――――……」 「……オレのこと、信じられない?」  そう聞いたら。  奏斗は、一瞬固まって。それから、パチパチと何度か瞬きをした。  睫毛、長いなぁ……。  ぼんやり、見つめていると、ふ、と顔を上げて、オレを見つめる。 「……オレを置いてった奴もさ、オレのことからかって、楽しんでた奴だから。四ノ宮、ちょっと似てるからなぁ……」  奏斗の言葉に、む、とする。 「それさあ、からかってたんじゃなくて、可愛がられてたんじゃないの?」 「は?」 「奏斗が可愛いから虐めてたとか」 「……違うと思うけど」 「あれ、でも中学ん時って……」  それ、和希は一緒居なかったの? と思っていたら、奏斗が目の前で少し息をつきながら。 「……和希はそん時居ないよ。別の友達たちと来たから。高校んときは、居たよ」  すぐ悟った奏斗が、さらっと、説明してくれてしまった。 「…… あ、ごめん」  なんとなく謝ると、奏斗は、またきょとんとした顔でオレを見てから、ふ、と笑んだ。 「――――……なんかお前に、和希の話するの、慣れてきた。……謝んなくていいよ」  そんなことを言って、少し瞳を細めて笑った。 「――――……」  オレがそれを聞いて、その笑顔を見て思ったのは。  ……始めの頃は、和希の名前出すだけだって、大変そうで。震えてたのに。  普通に言えて、少しでも、笑顔を出せるようになってるんだと、思うと。  なんだろう。……なんだか、無性に、嬉しい。

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