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第257話「単純」*大翔

 アイスを食べ終えて、渋ってる奏斗を連れて、お化け屋敷の列に並んだ。 「混んでるしやめようよー」  奏斗は、そんなことを言ってる。……理由は混んでるからではないと思うが。確かに、カップルやグループ連れに加えて、親子連れも並んでるので、結構混んでる。意外と全年齢の色んな人達が入るアトラクションなのかもなあと思いながら列を見て、奏斗に視線を戻すと。  ものすごく嫌そうな顔の奏斗は、前後に並んでるちびっこたちを見ながら、一言。 「……何なの、この子たちさ、中に何があるか知ってて、こんな楽しそうなのかな?」 「……知ってるんじゃないのかな、多分。思い切り看板にお化けの絵が描いてあるし」  思わず口元押さえつつ、笑ってしまいながら答えると、睨まれる。 「……なあ、ほんとに置いてくなよ」 「大丈夫だって、信じて」 「……あん時友達もそう言ったからな」  むむ、とむくれてる。 「まあさ、昔よりはオレ、大人んなってると思うし……作り物だって分かってるし……多分、入ったら、全然大丈夫じゃん、てなると思うんだけどさ」 「そう?」 「そうだと思わない? だって、もう子供じゃないし」 「……ていうか中学ん時だって、作り物って知ってたでしょ?」 「知ってたけどさあ。……ていうか、最後オレ、お化けに助けてもらったしね……作り物なんて、分かってんだけど……でも、超怖かった」 「……」  笑いがこみ上げるけど、これ以上笑うと怒るかなと思って、我慢……しようと思ってもやっぱり駄目だった。ククッと笑ってしまうと、ジト、と睨まれる。 「……オレ、お前、やっぱり嫌い。絶対オレを置いてく奴だよな。でもって、笑うんだ」 「……ってちょっと待って、ごめん、なんかもう可愛くて笑っちゃうんだけど、置いてかないから」 「全然信じられない」 「じゃあ、中入ったら、手、つなご?」 「……絶対やだ」 「手つないで、おもいきり腕組んでたら、オレ、いくら何でも逃げられないでしょ」 「絶対やだ」  同じ言葉ではっきり拒否られて、苦笑いが浮かんだ時。 「次の方どうぞー、こちらでお待ちくださいねー」  スタッフの声に、奏斗がぴしっと固まってる。 「ほら、行こ」  奏斗の背を押すオレは、今度は完全に苦笑い。  そんなに苦手なんだなと思って。  中に入って、暗くなると同時に、奏斗の手を握った。 「……っ」 「離さないから、大丈夫だよ」  なんか、手がすごく冷たい。冷や汗?  ほんと怖いんだな、と、握った手を引き寄せる。文句言う余裕もないらしい。  驚かせる幽霊役が出てきたり、何もないところから急に骸骨が出てきたり、火の玉みたいなのが飛んだり。よくあるお化け屋敷だったけど、奏斗はその度に、お化け屋敷のスタッフがきっと喜んでるだろうなと思う程に、大げさに驚く。  叫ぶわけじゃないけど、大きくビクッ!!と震えて、オレの腕にもはやしがみついてる。  ……ちょっと痛い。  思うけど、なんか可愛くて。 「……っ何で、怖くないの、お前……」 「――――……何ででしょ……」  逆に何でそんなに怖いんだろう。 「作り物だって思いこんでみたら? まあ、お化け屋敷入ってるのにそれもなんだかなって感じだけど」  言いながらクスクス笑ってしまう。 「それかさ……」 「……っ?」  しがみついて、若干オレの後ろに隠れ気味な奏斗が可愛く見えて。  ついつい。 「――――……」  キスしてしまった。 「別のこと、考えるとか?」 「……え。 ってか……! 馬鹿!」  お化けの人に見られたらどうするんだよっと、小声で言って、ピーピー文句を続けてる。はいはい、と笑いながら。 「ちょっと怖くなくなってるじゃん」 「……っっそんな単純なものじゃないんだからっっ」 「なんの自慢……」  クックッと笑いながら、歩きながら、もう一度、キス、しようとしたら。  手で防がれて、叶わず。 「ち」  舌打ちの真似をすると、ちっじゃない!! と奏斗が怒ってるけど。  腕にしがみついてる、強さが、さっきよりも、ほんの少しだけ弱まってる。  ――――……単純。    

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