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第258話「嘘だろ?」*大翔
オレ、お化け屋敷なんて、いつ以来かな。小学生位だっけ。記憶も定かじゃない。入ったことはあった気がするけど。
……多分、オレは、現実主義者で、こんなの作り物だと、冷めてたような。
嫌なガキんちょだな。
そんなことを思いながら、対比して、めちゃくちゃ可愛い人を見下ろす。
さっき少し気が逸れたみたいだったけれど、今はもう、怖さの方が復活したみたい。というのも、今このゾーンに入ってから。
さっきまでは、日本のお化けゾーンで、井戸やら墓やら、日本の長屋風な建物がメインだったけれど、今は。
「……っっ病院とか……っ反則だよな……」
声は震えてる気がするし、またぎゅう、とオレにしがみついてるし。絶対これ、無意識だろうけど。
なんだかもう、途中出口に連れて行ってあげたくなるが。
……それじゃあまた途中退出になっちまうし。
「奏斗、大丈夫だって。別に出てきたって、掴んできたり、襲ってきたりしないから」
「…………っっ」
あんま、聞いてないな、これ。
確かに、閉鎖された病院って感じで、あちこち崩れそうな感じと。血のつもりなのか薄汚れた赤茶のシミや、手術台とか……。オレ的にも、こっちの方が不気味な感覚は分からなくはないかも、とは思うが。やっぱりこれはあくまで作り物という感覚がオレにはある。
「奏斗」
「…………」
繋いだ手は、完全に冷や汗で冷たすぎる。その手を、改めてオレの方に引き寄せる。
「大丈夫だよ、居るから」
そう言うと、腕に触れてる手が、また少し強く捕まってくる。
地面とかに散らばってる手術器具っぽいものとかも、こういうところで見ると、まあ気分は悪い。にしたって……。
クス、と笑ってしまうと、奏斗が、びくぅ!と震えた。
「な、なにっ?」
「……あ、いや、ごめん。可愛いなと思って」
「ば、ばか、なの? おどかすなよっ」
笑っただけなのに、思い切り震えられてしまって、もう、ほんと、ごめん。おかしくてしょうがない。
その後、遠くのドアが開いて出てきたのは、手術着の、髪の乱れた女の人っぽい、怪しいお化け。だんだん近づいてくる。
多分、あれがどうにかならないと、この部屋の出口は開かないみたいだ。
何をしてくるんだろうと思って興味津々で見ているのだが、奏斗は、オレの陰に完全に隠れて、でも気になるらしくて、少しだけ覗いている。
あれ、何が来るんだろ。
下を向いてて、顔が見えないから、すげえ怖い顔とか? と思った瞬間だった。
ごとん、と音を立てて、頭が、下に落ちた。どういう仕掛けか分からないけれど、本来頭があるはずのところに何もなくて、その落ちた頭を、そのお化けが手に乗せて、青ざめた、血の付いた顔を、こちらに向けて、歩いてくる。
奏斗が、後ろで完全に、声も出せずに叫んでるのが分かる。
オレもそれは予想外で驚いたのだけれど、次の所に進むドアがやっと開いた瞬間。
奏斗がオレから離れて、猛ダッシュで走り出した。
走り出したというか。多分あの、首を抱えてるお化けから、大脱走したんだと思われる。
「は?……嘘だろ?」
行っちゃったじゃん……。
ぴゅー、と、効果音がついてそうな後ろ姿をしばし唖然と眺めた後。
そのお化けに顔を向けた。
少し近づいてきて分かった。遠近法で身長がよく分からなかったけれど、本来頭があるのはずっと下。デカい手術着の中に普通に人が入ってて、上に乗せてた顔を落として抱えただけ。仕掛けが分かれば怖くないのに。
……さて。追いかけるか。
ドアの向こうに奏斗はすっかり消えてしまったし。
ていうか、離れるなって言ってたのに、自分から離れちゃってるし。
ぷ、と笑いがこみあげてしまいながら、次のゾーンに入った。
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