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第259話「待ってた?」*大翔

 次のゾーンは。……廃校、だな。  むしろ昔の日本や井戸とかよりも、実感として割と身近に想像できるこういう方が、怖いんじゃないかなと思うが。  奏斗、どこ行った……。  とりあえず、居ない。……ように見える。  もしかして、あれかな。もうすぐ出口で、もう、駆け出て行って中に居ないとか?  驚かそうとしてくる声や音を聞きながら、これ、居たら耐えられないんじゃねえのかな。マジでどこだ? 下手にオレが出ちまって、まだ中にいたら、オレ、置いて出て行ったことになるんじゃねえの? それはかなりまずい気がする。 「奏斗?」  隠れられそうなところ、すべて覗き込みながら、少しずつ進む。  くたびれた風景の学校の廊下。踏めばギシギシと鳴るとか、無駄に凝ってる。オレが少し笑った位で驚いてたのに、大丈夫かと本気で心配になりながら。 「奏斗ー!」  先を見ると、階段を降りるしかない感じ。  降りれたかなあ、ここ。あの感じで、階段、降りれた気はしないんだけど。  通りかかったのは、音楽室。不気味な肖像画と、いかにも勝手に鳴り出しそうなピアノが置いてある。  ……ここには入んねえだろうし。  向かいの教室。ここは、普通の教室に見えるけど――――……ああ。普通じゃなかった。一つの席に薄暗いライトが当てられてて、枯れた花が無造作に入れられた花瓶が置いてある。それでも、向こうにある理科室とかトイレよりはましだろうと思って、教室に足を踏み入れると、子供の泣き声。 「――――……奏斗?」  返事はない。  とりあえず、あそこだけ見てから……。  思いながら、教卓の下を覗いた瞬間。 「あ。居た」  心底ほっとしてそう言ったのだけれど、完全に耳を塞いでて、反応なし。だから呼んでたのに返事もなかったのか。 「奏斗」  丸くなってる奏斗に、そっと、触れる。  びくう!と震えた後。バッとオレを見て。 「~~~~ッ」  しゃがんだオレに、抱き付いてくるものだから、バランス崩して尻をついた。尻もちついてるオレの上に奏斗がもうのっかってるみたいな感じ。 「……しのみや……」  この人からぎゅーとしがみつかれるのは、悪い気はしないなー、と思いながら。ポンポン、と背をたたく。 「大丈夫?」  聞くと、ぶるぶる首を横に振ってる。 「大丈夫じゃないの?」 「……!!」 「ん? なに?」 「……じ、人体模型に追いかけられた。もー無理……」  想像しただけで、ぶ、と笑ってしまう。  ぎゅう、としがみつかれて。可愛いけど。 「オレの手離すからでしょ」 「……だってさっきの、頭が…………」 「あれね、多分遠近法使われてて身長が分かりにくかったけど、普通に一人手術着の中に入ってて、上に乗せてた頭を落として抱えただけだったんだよ。頭が落ちたわけじゃないから。大丈夫」 「……そうなの……?」 「そうだよ」  クスクス笑いながら、背中を、よしよしと撫でてあげていると、少し落ち着いてきたみたい。 「人体模型、どこまで追いかけてきたの」 「……理科室覗いたら動いて、こっちに向かってきた……」 「廊下も追いかけられた?」 「……分かんない、見てないから」  ……多分そいつは、理科室のドアも出ていないんじゃないんだろうか。本気でそんなもんが追っかけてきたら、今の時代訴えられそうな気もするし。 「……奏斗」  ぎゅ、と抱き締める。 「大丈夫、もうほんと、離さないから」 「…………っつか。オレが、離れただけだし」  ……うんまあ。そう言ったら、その通りなんだけど。  苦笑いしか浮かばないけれど。 「オレのこと、待ってた?」 「……」  そう聞いたら。  一瞬、躊躇ったみたいだったけど。  こくこく、と小さく頷いてるのが、なんか本当に可愛くて。  ふ、と顔がどうしても綻ぶ。  

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