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第260話「呪われる?」*大翔
「……奏斗」
「?」
見上げてきた涙目が本当に可愛く見えてしまった。
教卓の後ろで、誰にも見られてないし、いいかなと思って。
その唇に、キスをした。
奏斗は頭を少し引こうとするけど、後頭部を押さえて、深く重ねる。
「……っん……」
くぐもる声が、いつ聞いても好きだなと思ってしまう。
可愛い。少しの間だったけれど、深く絡めて、そっと外すと。
涙目の奏斗が顔を少し赤くして怒ってる。
「だっから……!! おばけに見られたら、どうするんだよ……!!」
「別に、いいんじゃない? ……奏斗?」
奏斗が廊下側を見てひきつって固まってるので、ん? と振り返ると、そこには、なんと。――――……人体模型が、立っていた。……こっちを見て。
「ヒ……」
オレにしがみついてくる奏斗だったけれど、人体模型の中の人は恐らくまずいものを見てしまったとでも思っているんだろう。何も言わず、何もせず、すっと視線を外して、理科室の方へ戻っていった。
「……」
えーと……。
……多分、さっきの逃げてった奏斗があまりにすごかったから、心配して見に来たんじゃないのかなと思うのだけれど。
……あのカッコで、見に来られてもな、と苦笑いしか浮かばないが。
「だから……っっ見られたじゃん、あんなのに!!」
「あんなのって言っても、中、人だからね」
まあそれも問題だろうと思うのだけれど。奏斗はもう意味が分からなくなってるのか。
「なこといったって、あんなものに入ってる人に、キスしてンの見られるとか、もう罰あたりで呪われるとしか……」
「意味分かんないな、無いって、人だから」
「人じゃないかもしれないじゃん、さっき、超怖い動きで……っ」
本気だろうか。……どんな動きだったんだろう。とりあえず今は視線を逸らされてて、すーっと普通の動きで消えたけど。あーもう、無理。面白すぎて。
クッ、と笑い出したオレに、奏斗がまた、何っ? とビビッてる。
だから何でオレが笑ったからってビビるんだか。もう。
もう。何かオレ、こんなに笑ったの、何年ぶりだろう。
可愛くて、面白くて、ほんと。……何なの。
ようやく笑いが少し収まった頃には奏斗は大分むくれていたけれど。
「……とりあえず、早く出よう。一人で中も少し進めたし。これで出られたら、トラウマなくせるんじゃない?」
そう言うと、はっと気づいた感じで、奏斗がオレを見上げた。
確かに、とでも、単純なこの人は、思ったみたい。ちょっと嬉しそう。
……まあ、真相は。怖すぎて、勝手に大脱走して、模型に追いかけられて、一番怖くない部屋の教卓に隠れて、耳を塞いでた、みたいな。面白すぎる感じではあるけれど。
……ま、言いようによっては、少しは一人で進みはしたしな。うん。……逃げただけ、なんだけど。
笑いを堪えながら、なんだか少し進む気になったらしい奏斗と、立ち上がった。
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