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第261話「出られた記念」*大翔

 出口のドアが開いた瞬間。  眩しさに目を細める。  最後の最後まで固まってしがみついていた奏斗が、やっとオレから剥がれた。 「……やったー!! 出口から出られたー」  わーい、とばかりに喜んでいる。 「うん。良かったね」 「……」  ここで笑っちゃいけないだろうと我慢して、そう伝えると、奏斗は、じっとオレを見つめた。 「お前、実は良い奴なんだな……」  ……実は?  …………今までどう思ってた訳? とツッコミ入れたくてしょうがないが。 「ほんとに置いて行かなかったし、迎えに来てくれた時はもう……」  そこで、ふと奏斗が黙った。 「ん?」 「……あ、別に。なんでもない。とにかく、ありがと!!」  奏斗に手を握られて、ブンブン上下に振られる。  ……まあ、喜んでて何よりだけど。 「なんか、明るいって、いいよなー」 「足、もう震えてない?」 「……足なんか震えてないし」  ……震えてた気がするけど。全身。 「そうだった? まあ手は大分血が通ってきたけど……てか、ほんとに苦手だったんだね。でも、もう大丈夫だよね?」 「うん。大丈夫! だって立って歩いて、出られたし」  すっかりご機嫌。 「良かったね」  笑いながらそう言うと、奏斗はふっとオレを見上げた。 「……ごめん、オレ、すっごいぎゅー--って掴んでたよね」 「いいけど……」  思い出すと吹き出してしまいそうだけど、オレはなるべく普通にそう言った。 「痛くなかった?」 「まあ……ちょっとだけ、痛かったかな」 「ごめん」  結局クスクス笑ってしまうと、奏斗も苦笑い。 「でも、ありがと。……一人じゃ無理だったけど、歩いて出口から出られたってだけで嬉しい」 「……それは、良かった」  いっこでも、余計なトラウマなくなって、ほんと良かった。 「じゃあ今日は、お化け屋敷出られた記念日ってことで」 「え、何それ」 「あとでお祝いしよ。夕飯どうする? ここでいい?」 「んー。夕飯はここがいいなあ。だって、夜の観覧車、乗りたいから」 「いいよ。レストランあるからそこで食べてお祝いしよ」 「なんのお祝い……」 「奏斗がお化け屋敷出られた記念。毎年、お祝いね?」 「ほんと、何それ」  クスクス笑いながら、奏斗はオレを見上げてくる。  でも嬉しそうなのは、分かる。 「何年か後には、奏斗が一人で出口まで来れたらいいね」  クスクス笑いながら言うと。 「それは、何十年後かもしんないけど……」  ぼそ、とそんなことを言うから、可笑しくてならない。 「どこのレストランで食べる? ファーストフードとかじゃないちゃんとしたとこ行こうよ。パンフ貸して?」 「ん」  鞄からパンフを出して、オレの前で開く。 「いくつかレストランあるよね。こことかは? 行ったことある?」 「前、中高校生だから。ファーストフードとかしか行ったこと無いよ」 「どこがいいかな?」  そう言って、メニューを見ながら考えていると。 「ほんとに、そんな記念日お祝いする気でいんの?」 「そうだけど?」  当然、と返すと、奏斗はめちゃくちゃ苦笑い。 「変なやつ……」  言いながらも。ふ、と笑って、オレを見上げる。 「……まいっか。嬉しいから」 「――――ん。そだね」  嬉しそうに微笑んでるのを見るとね。  どうしても。  抱き締めたくなって、ほんと、困る。  

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