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第273話「大事?」*奏斗

 なんだか、微笑んでる四ノ宮を、ただ見つめる。  ふと、四ノ宮が窓の外に目を向けるので、自然とオレも、窓の外を見た。  目の前に、花火。  ……めちゃくちゃ、綺麗。 「いいね、すっごい綺麗」  ……なんか四ノ宮って。  話し出した頃から。どんどん印象が変わってって。態度も変わってって。  ……うさんくさいなんて思ってた時と比べると、なんだか別人みたい。  その変化に、ついていけず、オレは、取り残されてる気がする。  何発も続けざまに花火が上がって、短い花火が終了した。  瞳の奥に眩しい光の影が残る。 「……良かった、乗ってる間に見れて。見れたらいいなーとは思ってたんだけどさ、花火時間短いらしいし、タイミングが合わなかったらって思って言わなかったんだよね」  クスクス笑って、四ノ宮の視線がオレに戻ってくる。 「結構良くなかった? 観覧車で花火」 「……うん。綺麗だった」 「だよね。オレも、思ってたより近く見えて、結構良かった」  そんなこと言ってる、四ノ宮に、頷いていると。ふ、と見つめられた。 「奏斗、やっぱり言っとく。意味わかんないとか、思われてンのは、嫌だから。覚えといて」 「……?」 「オレ、あんたのこと大事だから」 「――――……」 「……一人で泣かせたくないし、好きでもない相手に、触れさせたくない。……あんたがそれをほんとに望んでるなら仕方ないけど……自分のこと汚いとか、訳わかんないこと言っちゃうようなこと、絶対もう、させたくない」 「……」 「美味しいもの、食べさせたいし。笑っててほしいし。……楽しいと思うとこ、連れて行きたい」 「……」 「オレがあんたにしてること全部、ただの知り合いにすることじゃない。知ってる他の誰にもしない。大事だから。奏斗だけだから。あと、これ……あんたが本気で嫌がらない限り、ずっとだから……覚えといて」  何も返す言葉が浮かばなくて、瞬きだけ繰り返す。  ……大事、だから。  よく分からないけど。……大事だから、っていう言葉が。  何だか、心のどこかに、するする、入ってきたみたいな。 「なんで……オレなんか、大事、なの」  そう言うと、四ノ宮は急にムッとした顔をした。  眉を寄せたまま、ちょっと窓の外を見て、あ、という顔をした。  何か見えた? と思った瞬間。 「え」  ぐい、と引かれて。  キス、された。  離れようとしたけど、後頭部にまわってる手に押さえられて、逃げられないまま、数秒、キスされて。 「っ……っだから、見えるから嫌だって……」 「今オレ、一番上で、キスしたからね」 「――――……は?」 「観覧車の一番上で、キス。……オレの方は、もう決めてるから」 「――――……」 「……次ここ来た時は……奏斗からしてくれたらいいけどね」  クスクス笑って、そんなことを言う四ノ宮が。  ……オレには、何だかほんとに理解できない。 「何でオレなんかって言うけど。……なんか、とか、ほんといらない」 「……」 「……オレなんか、とか、絶対言わせないように大事にしようってしか、思わない」  まっすぐに見つめられて、そんなことを言われる。  押さえられていた手は解かれたから、少し距離をとって。  何だか何も答えられずにオレは、外の景色に目を向けた。

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