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第275話「良い奴」*奏斗

 出口の前のショップは、本当にこれでもかと言う位広くて、山ほど商品がある。 「……四ノ宮、オレ、ここで葛城さんに買うものないよー」 「あ、そう?」 「オレはなんか、お酒とか、葛城さんが好きなもの買いたい」 「ああ、日本酒、好きだよ」 「じゃあ、明日日本酒買ってくる」 「一緒行く」 「一人で行けるけど……あ、でも葛城さんが好きなお酒分かる?」 「多分」 「じゃあ頼んだ」 「ん」  てことで、葛城さんのお土産はないけど、真斗には買っていこ。  ここらへんのお菓子、好きそう。チョコクランチみたいな……。  いつ渡せるかな。次の試合が、今週末ならオレ、ゼミの合宿で行けないけど……。どこかで待ち合わせればいっか。  家までもそんなに遠くないんだから、帰ってもいいのだけど。  そもそも実家に行きづらいのもあるんだけど……和希が帰ったと聞いてからはますます、帰る気がしない。地元の駅。近所だし。……和希だけで帰って来てるなら、家はもしかしたら、近所だったあの家じゃなくて、アパートとかかも……? でももうそうなるとどこで遭遇するか分からないし。  そう思ってしまうと、実家に帰る気が無くなってしまってた。  でも昨日、顔見て……。思ってたより、オレ、もっとどうかなるんじゃないかと思ってたけど……。 「奏斗、この顔とこの顔、どっちが可愛い?」 「え?」  お菓子の箱の包装紙に描いてある、この遊園地のキャラクターの顔。  にっこり笑ってる顔と、目をつむって笑ってる顔。 「……ええ……どっちだろ。どっちも可愛いよ?」 「見てると和むのどっち?」 「えーと……この矢印みたいな目の方。すごく楽しそうだから」 「オッケー」 「……? このお菓子買うの?」 「いや、これは買わないけど」  四ノ宮はクスクス笑いながら、オレを見る。 「美味しそうなお菓子選んでくれる? うちで働いてる人たちに適当に買ってくから。葛城に渡す」 「どれくらい?」 「多めので三箱くらいかなあ……」 「偉いね。そういうの買ってったりするんだ」 「……外面よく生きてきたからね」  苦笑して見せる四ノ宮。「そんなことないよ?」とすぐに否定したオレに、四ノ宮は「ん?」と不思議そう。 「別に外面とかじゃないでしょ。買っていこうかなって思ってる時点で、偉いよ? そういうの、気付かない奴は、気付かないからさ……」 「――――……」 「あれだね、基本的なとこで、すごく良い奴なんだろうね、四ノ宮」  だからオレなんかにも、こんなに構って、大事とか言っちゃうんだろうなと思いながらそう言ったら。  不意に。ふ、と、照れたみたいに笑った四ノ宮は。  手で自分の口を覆って、んー、と考えてる。 「……オレ、良い奴ではないと思うけど」 「――――……」 「奏斗に言われンのは、嬉しいかもしれない」  何だか、何も言えないまま。  四ノ宮が嬉しそうに笑うのを見ていたオレは。  四ノ宮が、「あれがいいかも」とか言って、ちょっと離れたお菓子のところに歩いていくまで、ちょっと固まってた。  ……なんか。  …………照れるとか。あんな風に笑われると。  調子狂う。つーか。こっちが照れるっていうか。  ……オレが昨日、和希に会っても、なんとか底まで落ちずに、普通で居られたのは。  …………四ノ宮が居てくれた、から。というのは、分かってる……。  …………なんなのかな、四ノ宮。  もう、オレの中で、印象が変わってく人間、ダントツナンバーワンの称号をあげよう……。   (2023/1/25) (≧▽≦) ↑ 奏斗が可愛いって言ったのはこういう顔♡

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