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第276話「お礼」*奏斗

 とりあえずいつ渡せるか分かんないから、真斗へのおみやげは賞味期限が長いものを買うことにした。 「何買うの?」 「お煎餅とクッキー」 「……お煎餅?」 「……何?」  四ノ宮にクスクス笑われる。 「お、がつくのが可愛い」 「…………つけない?」 「煎餅。お煎餅…… 煎餅だね」 「そうなの……??」  うーんと考えながら。 「……おせんべ、て言ってた気もしてきた。なんかそういう歌、無い?」 「しらない」 「おせんべ焼けたかな、みたいな歌」 「あるような……ないような……」  言いながら、クッと笑い出す。 「つか、なんか不愉快。なんで笑うの」  むー、と四ノ宮を睨んでると。 「オレは超楽しいけどね。どっちにしても可愛くて」 「……つか、オレのこと、可愛いって言うな」 「じゃあ可愛いこと、しないでよ」 「してないし」  ちょっと睨みながら言うと、そう? と楽しそうに笑って、四ノ宮はオレを見下ろす。 「……オレ、あっち見てくる」 「はいはい」  四ノ宮から離れて、まだ見てなかったキーホルダーとかのコーナーに移動。  ……可愛いとか言いすぎ。あいつ。意味がわかんない。 「――――……」  ……四ノ宮に、何かお礼、と思ったけど。  四ノ宮にあげたいものも、ここには無いな……。  彼女とかだったら、おそろいで持つとか、ありなんだろうけど。  ……うーん……だめだ、また別のものでお礼しよう。  何がいいのかな。いまいち、分からない。  ……ていうか。ほんとになんか。……四ノ宮が何が好きで、何が嫌いかとか。……なんかむしろ、普通のことを知らない気がする。 「奏斗、なんか買うの?」 「あ、ううん。いいや」 「良いの?」 「――――……四ノ宮、なんかここでほしいものある?」 「ん? オレが欲しいもの?」 「うん」 「んー? どうだろ……奏斗は? ある?」 「オレのは良いんだよ、つか、お礼にって思ったけど、やっぱないよね」 「……ああ、じゃあ。いっこ、買ってもらおっかな」 「無理に選ばなくていいよ?」 「無理にじゃないよ……えーと……」  四ノ宮は並んでる中から、ここのキャラクターのついてるのを一つ取った。 「これが良い。鍵につける」 「……」  さっき、オレが選んだ笑顔の犬もどきがついたキーホルダー。 「……これでいいの?」 「うん。大事にするから」  クスクス笑って、四ノ宮が言う。  ……なんか、四ノ宮の普段持ってる持ち物と、ものすごく違うんだけど。  黒とかそういうのが多いのに、こんな可愛い顔した犬みたいなキャラクターが、めちゃくちゃ笑ってるキーホルダー……。 「これ、ほんとに欲しい? つけるの恥ずかしくない?」 「奏斗がこの顔選んだって思うとちょっと面白いから。家の鍵なんか、誰にも見せないし。……あ」 「……? 何?」 「……それ二つ買ってくれない?」 「ん? 同じの?」 「ん」 「いいけど……これでお礼になる?」 「十分」  四ノ宮はなんだかご機嫌で、クスクス笑いながら頷く。

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