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第288話「母親?」*大翔

【side*大翔】  朝。少し早く目が覚めた。奏斗はまだぐっすり寝てる。  そうっとオレから離して、布団をかけてから、立ち上がった。ふと、落ちてるぬいぐるみに気づいて、昨日奏斗が抱えて寝ていたのを思い出すと、顔が綻んでしまう。  ……まあ、最後は邪魔だったから、どけたけど。  抱えてた奏斗は、なんだかめちゃくちゃ可愛かった。  拾い上げて、オレが今まで寝ていたところに置いた。  目が覚めたら、一番にこれが見えるだろうと思って、その時の奏斗を思うと、なんだかものすごく和む。絶対、笑ってそう。  ……ツナの入ったホットサンドか。  くす、と笑ってしまいそうになりながら、着替えを出して、シャワーを浴びた。コーヒーをセットしてから、ドライヤーをかける。髪が乾いて、リビングに行くと、椅子の上に置いたままの、遊園地の袋に気づいた。  ああ、そうだ。昨日の写真……。  中から取り出して、ジェットコースターでやたら笑顔の変な写真を、カウンターの上に置いた。  ……嫌がりそうだな。ここに置くの。  そんな風にも思うのだけれど、それも面白くて、そのままにする。  コーヒーを注いで、一口飲んでから、朝食の準備。ツナと薄切りの玉ねぎと、サニーレタス。スクランブルエッグも好きだから焼こう。……でも起きてからでいいよな。  玉ねぎだけ水にさらして、ツナに味をつける。  料理は教わったけど、自分のためにはあんまり凝ったものは作らなかった。やっぱり手間だし。食べられればいいやと思ってたし。料理の見た目もそんなに気にすることもなく、適当にやってた。  奏斗がおいしそうに食べるの想像すると、なんだか手間を手間だと思わないのが不思議な位で。……せっせと料理を作る、新妻の気分が分かるような……。……って、何考えてんだオレ。そんなもん、分かんねえわ。  …………でもなんか、あれだよな。  オレが作ったものを、奏斗が美味しいって言って食べて、それで奏斗が元気で居るのは、嬉しい気がする。  むしろこれは、母親っぽい気分かな……? まあ、そっちもよく分かんねえけど……。  そんな色々を考えながら手を動かしていると、焼く前の準備までは出来てしまったので、そろそろ奏斗を起こすことにした。寝室のドアを開けて、一瞬足が止まる。 「――――……」  置いてたぬいぐるみが見えない。落ちたのかなと思いきや、なんだか布団が妙に膨らんでて、もしかして、と可笑しくなる。  近づいて、奏斗を覗き込むと。まだ、すやすや寝てるんだけど。  なぜか、ぬいぐるみが、布団の中に入っていて、奏斗がこれでもかと密着して抱き付いていた。  ふ、と笑ってしまう。  ……可愛い。昨日からの、こんな姿だけでも、買ってきて良かった。  最初に土産の店を見てたら、奏斗にこれを抱かせたらあの座り方しなくて済むんじゃないかと、思い当たった。  でも、相当邪魔だし、オレの部屋にこれかと思うと、園内を回りながらしばらく考えていたのだけれど。キーホルダーの顔を選ばせた時の、笑った顔を見たら、もう買おうと決めていた。  ……でも、寝室は持ち込み禁止にしようかな。 これ、いつ、布団に引き入れたのかと、可笑しくなりながら、奏斗の背に触れた。  

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