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第287話「嫌な夢」*奏斗

 多分、これは夢だと、分かってる夢を見ることがある。  今見てるのは、これはきっと、夢だって、今も思ってる。  ……和希が居る夢。側にずっと。  好きで好きで。和希もオレが好きだと言ってくれて。  何度も、抱き合った。とにかく、夢中だった。和希が大好きだったから、気持ちよくて。  抱かれるのも、好きだった。あの頃の、夢をたまに見る。  和希を大好きで、ずっと笑ってる、オレを、上から見てる。  そんなに大好きでも。……別れたいって、言われちゃうんだよ。  ゲイは、嫌だって。 ……告白なんか、しなきゃよかったんだ。  そしたら、和希はオレをそんな目では見なかっただろうし、キスしたり抱かれたりすることも無ければ、オレだって、友達で居られたかもしれない。  ……無理か。  友達で居られないから、告白したのか……。  見てる目の前で、昔のオレと和希の姿が、流れていく。  楽しそう……。何も考えず、和希だけを好きだった、日々。  ……もうすぐ。  別れを告げられる、頃かな。……見たくないな。  もう何度も、夢に見てる。見たくない。目、覚めればいいのに。  願い虚しく、夢がその時に、近づいてく。 「――――……と……」  いつも通り、最後、和希に……。 「奏斗」  びく、と体が震えて、それのせいで、目が覚めた。  視界が少し滲むのは……涙、かな。ごし、と、目をこすった。  こすり終えて見えたのは――――……。 「しのみや……?」 「……なんか、うなされてたから」  ……まだ部屋は暗い。  あぁ、そっか。……さっき、抱かれて……そのまま寝ちゃったのか。 「怖い夢でも見た?」  笑いながら、四ノ宮はその手をオレの頬にかける。 「……やな夢、見てた」  その手から避ける気もしなくて、そう言うと、すり、と撫でられる。 「もっと早く起こせば良かったかなー……なんか、悪夢見てる時起こしちゃだめ、とか聞かない?」 「……知らないけど…………今度そうだったら、起こして」 「――――……ん、分かった」  何故だか、少し長い沈黙があって、その後、四ノ宮は、ふ、と微笑んで頷いた。そのまま、引き寄せられて、抱き締められる。 「……まだ眠いでしょ」 「…………うん」 「今度はいい夢見なよ」  クスクス笑ってる四ノ宮の腕の中に、なんで大人しくはまってんのか。  ……もうなんか、自分が分かんない。自分のセリフにも、少し経って、違和感を感じる。  ……今度そうだったら起こしてって。  今度そうだったら、って。  今度も一緒に寝てる前提みたいだと、四ノ宮の腕の中で気づいて、自分の発言を訂正したい気持ちにもなるのだけれど。  訂正しても無駄か、もう一回言っちゃったし。……さっきの沈黙と笑顔は、もう絶対それに気づいてるんだろうなーと思うと、何とも言えない。 「もっかい、おやすみ、奏斗」 「……うん。おやすみ」 「あー……明日、朝、何食べたい?」 「……朝?」 「食べたいもの言って」 「……ん……ホットサンド……ツナ入ってるやつ……」  言うと、四ノ宮が笑うので、オレを抱き締めてるその体が少し揺れる。 「了解」   笑みを含んだ声でそう言って、四ノ宮は、もう一度オレを抱き締め直した。  振り解こうっていう気が起きないのが。  ……自分で意味が分からない。  

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