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第296話「バカだな」*大翔
八人も居ると、注文もバラバラ長いし、デザートを食べだしたり何だりで、やっぱりすごく遅くなった。なんだかんだいって、奏斗が出てってから、かなりの時間が経っている。
「どーする? カラオケとか行く?」
そんな風に言ってる奴に、速攻心の中では、「帰る」と思っている。
とりあえず、奏斗に連絡して、今どこか聞かねーとと思いながら、スマホを弄る。
「今焼肉出た。どこに居る?」
奏斗にそう入れて少し待つが既読はつかない。カラオケだと気づかないかもな、と思い、どうすっか、と考えていると。
「大翔くん、カラオケ行く?」
香織にそう聞かれて、速攻で「行かない」と返したいところだが、それもやっぱりどうかとは思うので、ちょっとぼやかして断ろうとする。
「まだ月曜だしな。明日も一限からだし……」
「一時間位ならいけそうじゃね? そんな早く寝ないだろ? ちょうどここにカラオケあるし」
確かに焼肉屋のビルの隣の一階、目の前にカラオケはあるけれど。
オレが香織に言ってるのを聞いて、そんなことを言ってくる奴に、内心、断ろうとしてんの分かんねえのかなと、ムッとするのだが。
「んー、また次の時にしようかなぁ……」
と言いかけながら、震えたスマホに目を向ける。
『あと一時間あるから、先帰ってていいってば』
一時間、か。
「……やっぱ行こうかな」
「え? いいの?」
一時間暇だし。
「もしかしたら途中で抜けるかもだけど」
「そうなん? まあいいや、おし、いこーぜー」
奏斗に合わせて出よ。
……もしかして、ここにいるかな? 出てそのまま行ったなら、可能性は高いよな。
奏斗に、オレが今入ろうとしてる店の名前を打って、そこに居るか聞いてみる。すぐ既読がついたのだけれど、しばらく返ってこない。
あれ? と思って。「今からオレそこ入るんだけど」と追加で入れると。
『……マジでストーカーなの?』
と入ってきた。
何でだよ……と思ったけど、ああ、ここに居るってことか、とすぐ思い直して、苦笑い。
「だって焼肉の隣じゃん。ちなみにオレが言い出したんじゃなくて、友達が入ろうって言いだしたんだし」
……まあ、奏斗が一時間いるっつーから、付き合うことにはしたけど。
「奏斗の帰る時間に合わせるから連絡して。相川先輩達と別れたら、奏斗んとこ、行く」
そう入れると、返事は、あっかんべー、というスタンプ。
……ちっ。可愛くねーな。
こっちだって、あんたがそんな、狙われそうな顔してなかったら、こんなに一緒に帰ろうなんてしてないし。……あと、クラブとか、行かれても嫌だし。……とは言わないが。
スマホで揺れてるスタンプを見て、なんだかすごくムカつくのだけれど。でも。
「置いて帰んないでくださいね」
ちょっと下手に出てみる。
……多分こういう方が、効く。
『……もうなんなの、こども?』
「帰り道一緒のが楽しいでしょ?」
またしばらく返信がない。
案内された部屋に入って、香織が座ってから、少し離れた席に座った。その瞬間。
『一応連絡するけど、あわせなくていいからね』
と、入ってきた。
――――……バカだな。
合わせるに決まってるし。
ふ、と顔が綻ぶ。
「大翔、スマホ見てニヤニヤしてないで歌えー」
ぽい、とマイクを投げられる。
「してねーし。 いーよ、何歌う? 何でも歌う」
――――……とか。
勝手に口から出てくる自分に少し疑問は持ちつつも。
うるさくても気づけるようにスマホはバイブにして持ってよ、と思った。
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