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第316話「これだから」*大翔
「ていうか、オレは大翔って呼んでって言ってんのに、呼んでくれてないっつーか。オレが先に名前呼びしただけ」
ポーカーフェイスで、それだけ答える。ふうん?と姉貴が何か言いたげだけど、とりあえず答えたし、もういいだろと、また奏斗に視線を向ける。
「とりあえず、奏斗が似合うと思うかどうかでいいけど」
そう言うと、なんだかこちらも何か言いたげだったけど、奏斗は、んーとオレを見て。
「黒でいいんじゃない? ていうか、なんでも似合うと思うけど、四ノ宮は」
「そういう適当なのじゃなくて」
「何で? どれ着ても似合うって言ってんだけど」
「適当じゃない?」
「いや? 一応褒めてるけど?」
クスクス笑う奏斗に、そういうんじゃなくてさ、と苦笑い。ふと、オレと奏斗のやり取りをじっと見つめている潤に気づく。
「なあ、似合う? 潤」
「うん、似合うー」
潤は鏡ごしにオレを見て、うんうん、と笑ってる。
「もう黒でいいや。サイズは……前計ったのって……ああ、入学式のスーツだから、半年くらい前か」
オレがそう言うと、少し離れた所に居た葛城が、そうですね、と笑った。
「採寸してもらった方がいいですよ。大翔さん、まだ成長してそうですし」
言われて、そうだな、と頷くと、奏斗がチラッとオレを見てるから、何?と聞くと。
「まだ伸びてンの?」
「さあ。どうだろ。もう高校生とかん時ほどは伸びないと思うけど。奏斗は?」
「もうほぼ止まった気がするけど……」
「ふうーん。じゃあオレが伸びたらもっと差開いちゃうね」
「……なんかムカつく。やっぱりもうちょっと伸びる予定」
「予定って……」
クスクス笑ってしまう。
「とりあえず潤もボタンとか選ぶか?」
「うん」
潤を連れてソファに座り、一緒にボタンとかの種類を選んでいると、姉貴が近づいてきた。
「潤は、大翔と一緒の色でいいかな。お揃いにする?」
「ユキくんとおそろい?」
「え? ユキくんとお揃いがいいの?」
姉貴が笑いながら聞くと、潤はうん、と笑う。
「だめ。お前はオレとおそろい」
「どーしてー?」
「お前とオレは、おじさんと甥っ子だろ? どうせ一緒に紹介されるし」
「むー……」
何だか不満げな潤に苦笑いしか浮かばない。
「潤ってば、ユキくん、お気に入りねぇ」
クスクス笑って、姉貴が潤の頭を撫でている。
「だけど……」
姉貴はそう言いながら、オレの隣に腰かけて、ちら、とオレを見る。
「……だけど何?」
何だか、すごく含みを感じる視線と言い方で、オレが眉を寄せると。
「大翔も相当っぽいわよね?」
なんだかものすごく、こそっと言われた。
「……相当って?」
なんか嫌な感じを持つのだけれど。努めてポーカーフェイスを完全に保ったまま、そう聞くと。
「……ユキくんと話す時は、らしいなーと思って」
ふふ、と笑いながらオレを見て、「珍しいよね?」と囁く姉。
……はー。だから、やなんだ。この人は。
オレの外面、一番近くで見てきたのは姉貴かも。
もちろん、学校の交友関係との間までは知らないけど……オレが最も外面取り繕ってるパーティーにずっと一緒に出てたからな……。
オレが、本気がどこなのか分からないレベルで、人と適当に付き合ってるの、両親よりも、姉貴が一番知ってる。葛城にしてるみたいにオレから愚痴ったりはしてないけど。……姉貴には、バレてる、と言った方が正しい気が。
オレにとって、奏斗が特別なのも。
……しかも結構なレベルで特別っぽいの。気づいてる……?
つか、オレ、そんなに分かりやすいことしてたか、今。
ちょっと名前で呼んで、ちょっと、一緒に服の色選んで……。
……まあ確かに、ユキの方で呼べとか、そういうのは言ったけど。
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