311 / 542

第315話「変?」*大翔

  「ユキくん、ネイビーでストライプにして、ベストとかも可愛いんじゃないかな」  姉貴が言うと、そうですか?と奏斗が笑ってる。……めちゃくちゃ笑ってるのは、潤が奏斗のほっぺに触れてるからってのもあると思うけど。 「オレ、スーツ、全然分からないので……四ノ宮、どう?」  姉貴に言った後、オレを見て、聞いてくる。 「……似合うと思う。成人式に着るなら余計ベストあった方が良いかも」 「そっか」  ふうん、と言いながら、奏斗は色見本や、周りに飾ってあるスーツを見回している。 「お肌が綺麗なので、ダークネイビーで細かいストライプはいかがですか? そうですね……このあたりでしょうか」  スタイリストが色見本を奏斗に見せて、奏斗はそれを見ながら、うんうん頷いてる。 「生地、合わせてみたら。ほら、潤、こっち来い」 「えー」  さっきまで喜んでオレの腕に居たくせに、なんだか不満げな潤を奏斗から引き取って抱き上げる。 「ユキくんが似合うか見たいだろ」  そう言うと、「見たい!」とウキウキする三歳児。  どーなの、こいつ。何、奏斗の顔、好みとか? ……まあさっき、よろしく、て言った時の奏斗、可愛かったもんなー……。  とか、かなりアホなことを考えてる自分に少しうんざりしてる間に、実際の生地を肩にあてられて、鏡の前に立った奏斗を見つめる。 「ん、似合うと思う」  オレが言うと、なぜか潤も似合うーとすごく喜んでるし、姉貴と葛城も同意。色はそれで決まって、生地や裏地、ボタンやファスナーなどを選んでいく。ある程度の素材を一緒に決めて、奏斗が採寸に入った横で、オレも色を選び始めた。 「……黒が良いかな。オレのも細いストライプ入れて……あと、奏斗と一緒にスリーピースにする。潤もそうする?」 「なに?」 「オレ達とお揃いにするか?」  言い直すと、潤はうんうん、と笑顔で頷く。 「ユキくんとおそろい?」 「……お前、ちゃんと聞いてた? オレともお揃いだって」 「ユキくんは?」  潤の言葉に、奏斗は面白そうに笑ってるし、皆、クスクス笑う。 「ユキくんがめちゃくちゃ気に入ったみたいねー。まあ、分かる。イケてる子見る目は確かね、潤」  なんて姉貴が言うと、奏斗はちょっと苦笑いしながらオレを見た。 「四ノ宮は黒なの?」 「うん。ちょっと光沢あるやつがいいけど」 「ふーん、そうなんだ」 「何? 黒じゃない方がいい?」 「ううん、そういうんじゃなくて」 「黒でしたら、こんな感じでいかがですか?」  スタイリストが色見本の生地を持ってくる。鏡の前に立って、潤を左腕に移すと、右肩に生地をあてられる。 「奏斗、色、どう?」 「――――……」  腕の長さを採寸してもらいながら、奏斗がオレに視線を投げてくる。 「これ、似合う?」 「うん。似合うと思う。……あ、でも、オレ、よく分かんないけど」  「似合う」のところで喜んでたら、最後の言葉を苦笑しながら言われて、オレも苦笑い。 「似合うか似合わないか、奏斗が思うのでいいんだけど」 「四ノ宮、よく黒着てるから、似合うと思うけど……スーツってなると分かんないんだってば」  その言葉で「もう黒にする」と言って、笑ってると。  姉貴が、不思議そうな顔で近づいてきた。   「ねぇ、どーして、大翔が奏斗って名前呼び捨てで、ユキくんは、四ノ宮、なの?」 「……どーういう意味?」 「ユキくんが先輩なんでしょ? 大翔が雪谷先輩って呼んで、ユキくんが、大翔、なら分かるんだけど」 「――――……」  ちょっと無言。何て答えようかなー……と考えてると。  ほら、やっぱ変じゃん。と。  奏斗の視線が言ってる気がする。    

ともだちにシェアしよう!