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第320話「いつもの」*奏斗

「あ、雪谷さん。スーツなんですが」 「はい」 「本当は仮縫いで体に合わせる日を作るんですが、週末は合宿ということで厳しそうなので、もうそのまま作らせます。腕はいいですから、合わないということはないと思いますので」 「あ。はい。分かりました」  そうなんだ。仮縫い……すごいなー。全部オーダーで作るなんて初めてだから、もうほんと、感心することばかり。  頷いていると、信号で止まったタイミングで、葛城さんが軽く振り向いた。 「すぐ近くの駅で降ろしていいですか? マンションの駅まで一本で帰れますし、店が多いのでラーメンもありそうですよ」 「ああ。良いよね? 奏斗」 「うん」 「分かりました」  すぐに駅前のロータリーに車を入れてくれて、鍵が開く。四ノ宮の側から車を降りながら、葛城さんにお礼を言った。 「いえいえこちらこそ。大翔さんの我儘に付き合ってくれてありがとうございます」 「いえ……」  苦笑しながら四ノ宮を見上げると、四ノ宮も苦笑いを浮かべつつ。そのまま、ドアに手をかけて中を覗いた。 「葛城、気を付けて」 「はい。では、また」  オレもさよなら、と言い終えたと同時に、四ノ宮がドアを閉めて、車が離れていった。 「さて……」  んー、と腕を伸ばしてから、四ノ宮はオレを見下ろした。 「いこっか、ラーメン。とりあえず歩いて探す?」 「うん。良さそうなとこあったら入ろ?」 「ん。そうしよ」  二人で並んで、歩き出す。 「そんなに疲れた?」 「……雰囲気でね」 「そっか。ごめんね」 「いいよ、別に謝んなくて。てか、オレが勝手に疲れただけじゃん。謝るの、四ノ宮っぽくない」 「つか、オレっぽいって何」 「んー……偉そうで、ごめんとか言わなそうで……訳わかんない宇宙人」 「ひっどいなー……心外」 「そう?」  むー、と軽く睨まれて、ふ、と笑ってしまう。  通りかかったラーメン屋さんに入って、二人で向かい合う。  チャーシュー麺が良いって言ったら、四ノ宮もおんなじのを頼んだ。 「奏斗、ラーメン、好き?」  そう聞かれて、うん、と頷く。 「嫌いな人居るの? って思う位、好き」  そう言ったら、四ノ宮はクスクス笑った。 「そんなに好きなんだ。ふーん……」 「なに、ふーんて。……あ、作れるとか?」 「さすがに作ったこと無い。すごい煮込んだりして作るんでしょ?」 「うん。そうなんだろうね」 「でも、売ってるものも、結構本格的に作れるって見たことある」 「行列のお店のラーメンとか、出てるもんね」 「今度そういうの使って、作ってみようか」 「作ってくれんの?」 「ん。奏斗が好きなもの、作りたいし」  なんか嬉しそうに笑って、四ノ宮が言う。 「……なんでそんなに、オレにご飯食べさせたいの」  自然に浮かんだ疑問を口にした時、ラーメンが運ばれてきた。 「わー、美味しそう。いただきまーす」  手を合わせてから、箸を持って、スープを一口。 「おいしー」  ラーメン、ほっとする。  なんか、庶民の味て感じだよね。この雰囲気も落ち着く……。とか、思っていると、四ノ宮が目の前でクスクス笑った。 「その顔、オレが作ったもの食べさせて、見たいから」 「……ん?」 「美味しいと嬉しそう」 「……皆そうなるでしょ」 「奏斗は特に嬉しそう」  クスクス笑いながら、四ノ宮も、頂きます、と言ってる。 「食べさせたくなるよね」 「……へんなの、四ノ宮」 「変とかじゃないし」  苦笑しながら、四ノ宮もスープを飲んだ。  なんとなく二人になると。  いつもの四ノ宮になる気がして、なんだか少し、ホッとする、ような。

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