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第321話「大変」*奏斗

 ラーメンを食べ終えて、そのまま駅に向かい、電車に乗った。  自分たちの駅で降りて改札を出て歩いていると、コンビニの前で四ノ宮がオレの腕を引いた。 「アイス買うんじゃないの?」 「あ、そうだった」  さっきのラーメン屋にもアイスがあったんだけど、コーヒー飲みながらがいいなあとオレが言ったから、じゃあ買って帰ろうってことになったんだった。 「忘れてた」 「食べたいって言ったの奏斗じゃん」  クスクス笑われながらコンビニに足を向ける。自然と一歩先を歩いて、ドアを押し開けて通してくれる四ノ宮を何となく見上げてしまう。 「牛乳も買ってく。あんま無いかも……何?」  ……オレは女の子じゃないんだけど。  気づくと四ノ宮って、いつも、こんな感じだなあと思いながら見てるオレを見下ろして、クスッて笑う。 「ううん、別に。牛乳、ね」 「ん」  奥の方にある牛乳とかの冷蔵品のコーナーに向かって歩き出してすぐ。 「……ぅわ」  通りかかった雑誌のコーナーで、四ノ宮がすごく小さな。でも、おかしな声を出して、一瞬足を止めた。 「ん?」  四ノ宮はすぐ歩き出そうとしたけど、オレが数歩戻って、四ノ宮の視線が向いてたあたりを追うと、車や経済の本が置いてある場所。 「……何?」 「いや、ごめん、なんでもない」 「なんだよ??」  特別に変なものも無いような?   四ノ宮を見上げると、はー、とため息をつきながら。 「……親父」 「え?」  親父?  ……って何が?? 「……その写真、四ノ宮翔一って書いてあるでしょ」 「ん……? あ」  経済の雑誌の表紙。ばっちりキメたスーツの男の人。 「……え? お父さんなの?」 「……そぅ」 「え、すごくない? 表紙って」 「……経済紙って言っても色々あるし。もういいよ、いこ。アイス選ぼ」  背中を押されて、そこから離される。 「四ノ宮って……やっぱ、ほんとすごいんだね」 「だから、オレじゃなくて、家だけど」 「じゃあ……ほんと、家がすごいんだね。見合いとか早すぎて不思議だったんだけど、なんか分かってきた気がする……」 「それはオレだって不思議だけど。見合い結婚なんかする気なんかないし……なんか異様にモテんだよね。社長夫人とかさ。分かる? 娘の夫に……みたいな」 「あー……なんか分かる。セレブなおばさま受けしそう……表の四ノ宮……」  苦笑いしながらそう言うと、四ノ宮は、ふー、とため息。 「大変だねー」 「心こもってない」 「んなことないよー」 「棒読み」  クックッと笑いながら四ノ宮は言って、「いーからアイス。選んで」とまた笑う。  目の前のアイスコーナーに目を移しながらなんとなく色々考える。  でも、ほんと……大変というのか。羨ましい境遇なんだろうか? 本人はそんなこと無いって言いそうな感じがするけれど。  ……四ノ宮も、ああやっていつか、経済紙とか。表紙にのるのかな。  モテそうだな。……つか、その頃には結婚してるか。  ……その頃にはきっと、言葉を交わすこともなくなってるんだろうなー。 「――――……」  ………………なんだろ。  今、なんか……なんか、思ったような。 「奏斗、どれ?」 「ん。……悩み中」 「どれとどれで?」 「まだ絞れてない……」  何にしよ。全然アイス、目に入ってなかった。 「……これとこれ新しいなー。どっちにしよ……」 「じゃあそれ二つ買ってこ。オレなんでもいーし」  言いながら、四ノ宮がオレの指さしたアイスを二つ手に持った。 「買ってくる。今日、付き合ってもらったし」 「え、いいよ。……ていうか、むしろオレが出したい」 「じゃあ奏斗んちの豆でコーヒー淹れてよ。それでチャラ」 「……分かった」  言っても聞かなそうなので、頷いて、レジに向かう四ノ宮を見送って少し離れたところで立ち止まる。映画のチケットとかを注文できる機械が近くにあって何気なく見上げた。

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