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第322話「消えていく言葉」*奏斗
あ。前に見たことのある映画の続編だ。
……ふーん。続編やるんだ。面白かったけど、別に、あれで終わりでも良かったような気がする。
ラスト、感動したよなぁ。……続編はどうかなぁ。あとで調べてみようかな。
ぼー、とそう考えた時、その機械の並びにある、さっきの雑誌が目に入った。遠いから顔は見えないけど、人が映ってるのは分かる。
四ノ宮と、ちょっと似てたなと思い出す。イケメン親子なんだなぁ。お姉さんも綺麗だったし。潤くんも超可愛かったし。あの感じだと、四ノ宮のお母さんもきっと美人なんだろうな。
うーん。とにかく、なんかゴージャスな感じ。世界が違う感がすごくあるな……。
なんとなくため息をつきながら、もう一度、映画の広告に目を向けたところに、四ノ宮がレジを終えて歩いてきた。
「何? 映画?」
「あ、うん。ありがと」
「うん。……ああ、続編かー。面白いかな、これ。もう前ので完結で良かった気がするんだけど。ってか、これ、見たことある?」
「……うん、まあ」
今思ってたことと全く同じことをさらっと言われて、なんとなく言葉が出ない。同じこと思ってた、と言おうかどうしようか少し迷う。全く同じとか、とってつけたみたいだしなぁ、とか思っていると。
「アイス溶けるからとりあえず帰ろっか」
迷ってる内に、四ノ宮がそう言って、またオレの背に触れてきたので、なんとなく、一緒に歩き始めた。
「――――……」
……何で、いつも、背中に触れてくるんだろ。
こないだクラブで、他の男に触れられて嫌だった時から、何でだか、四ノ宮に触られても、すごく気になるようになってしまった。ただ、四ノ宮のは、嫌な訳じゃないんだけど……何で、むこうは嫌で、四ノ宮は嫌じゃないんだろうとか。……前は嫌じゃなかったはずなのに、どうしてすごく嫌だったんだろうとか。よく分からない疑問が浮かんでしまうから、四ノ宮に触れられると、気になってしまう。
四ノ宮は触れてくると言っても、強く押される訳じゃない。なんか、こっち行こ、みたいな、そんな感じの……エスコート、的な感じかな? ……こういうの、癖なのかな? 誰にでも、してるんだろうか。
「あのさ」
「ん?」
「……あの……」
「うん?」
首をかしげてる四ノ宮に、一瞬で色々考える。
誰にでも、背中触るの? ドアとか開けてどうぞ、みたいな。行こう、て時も、そっと触れるし。何で? と聞きそうになっているのだけれど。
……でも、これ、聞いて何になるんだ? ……誰にでもやるって言われても微妙だし、逆に、オレにしかやらないって言われても、結局返答に困るし……。一瞬で色々考えた末、オレは質問を変えた。
「……お父さんの雑誌、買わないの?」
そう言ったら、四ノ宮は、は?と眉を顰めた。
「買わないよ。雑誌用にもっともらしいこと言ってるだけだろうし」
「そうなの?」
「そうだよ」
苦笑いの四ノ宮に、ふーん、と頷いて。
本当に聞きたかった方は、言うのをやめた。
マンションまでの道を歩きながら、週末の合宿の話をしながらも、なんか、ほんとに一緒に居る機会が多すぎて、なんだかなあと思う。
家が隣でずっと一緒に居て。ゼミの合宿も一緒で、次の週は四ノ宮家のハーティーに出る予定だし……あ。そうだ。真斗の試合の日程決まったんだった。これも普通なら、大学の奴に言うことじゃないんだけど。
「あのさ、四ノ宮、真斗の次の試合なんだけど……」
「ああ、いつになったって?」
「今週の日曜の午前中だって。だから見に行けないけど」
「そっか。残念。応援行きたかったのに」
「――――……行きたかった?」
「行きたかったけど? 何で?」
だって、オレの弟で、お前にはあんまり関係ないし。
出てきそうになったその言葉は、心底不思議そうな顔してる四ノ宮の笑顔に、口から出ずに、消えた。
なんだか……さっきから、言わずに、消えていく言葉たち。
……なんでだろう。言えばいいのに。
「……ありがと。伝えとく。そう言ってたって」
「伝えといて。念送っとくからって」
「何それ……」
「絶対伝えといて」
「……分かった」
クスクス笑いながら、マンションのエントランスを進んでエレベーターに乗り、部屋の階で降りた。部屋に向かって歩きながら、四ノ宮がオレを見つめる。
「コーヒー淹れたら、うち来てね?」
「ん。……アイス冷やしといて」
「分かった。シャワーは? 浴びてくる?」
「うん。浴びてく」
「待ってるね」
そう言われて、頷いてから、ふっと浮かんだのは。
「ぬいぐるみも、待ってるかなー」
「――――……」
昨日、抱き締めてたらどけられてしまった、可愛いぬいぐるみを思い出してそう言うと、四ノ宮が苦笑した。
「ずっと、ぬいぐるみって言ってるのも変だから、名前つけよっか……」
そう言うと、「好きにつけて」と言いながら、ますます可笑しそうに笑う。
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