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第326話「和む」*奏斗

「二号っていうと、なんかあれだね、ロボットとか。人造人間とか……」 「じゃなくて。……四ノ宮に似てるからだよ。いいでしょ?」  そう言うと、「やっぱりオレの二号なの」と、四ノ宮は苦笑しつつ、コーヒーを手にして、一口。 「ん、いーよ。なんか二号って顔に見えてきたし」  オレが抱えてる二号の顔を見て、クスクス笑いながら、頷いている。  二号って感じの顔ってなんだよ、と思いながらも、なんかそんな反応が面白くて、なんだか和む。 「あ。そういえば、こないだ奏斗の部屋で一緒に観た映画の続編、多分夏休み前位からだけど。一緒に行く?」  夏休みか。実家には帰んないし。去年は友達と何回か旅行行ってたけど。今年はどうしようかな。なんて、思いながら。   「んー。日が合えば、いい、けど……」  そう答えて、ふと、止まる。  ん。いいのか? ……夏休みも、一緒?  ……何だかすごく気になりながらも、それ以上何も言葉には出てこない。 「あと、さっきコンビニで見てた映画は? あれ、奏斗も前作観たんだよね?」 「ん。観た」 「続編はどうだろ。観たい?」 「オレも、前のラストで良かったなって思うから……どうだろ」 「前のラスト、良かったよね。何年前だっけ。結構前だったような……」 「んー……高一とか……」  思い出しかけて、止まる。  ……あ。やば。……和希か。  こうして思い出すと、なんかほんと、オレの高二までって、和希が中心に居たんだな。……思い出のほとんどに、絡んでくる。  不自然だったかな、今、言葉止めたの。またなにか、言われるかな。  そう思ったけれど、四ノ宮は、確かにそれ位前かもね、と言って、流した。  ……和希、か……。  なんか。オレ、四ノ宮と話すようになって、だいぶ落ち着いてきたかな……。少しだけど、少し前よりも「過去のこと」として、思い出せてるような気がする。……和希のこと思い出す度に、ほんとに辛くて、もうなにも考えたくないって思ってたのに。  ……人に話して感情を整理するって、いいのかもしれない。  四ノ宮は、いつも、何の得もないのに、オレの話聞いてくれて。悪くないって言ってくれて。側に、ずっと居て、悩む時間も与えない、みたいな感じで……。 「あ、そうだ。忘れてた」  不意に言って、四ノ宮が立ち上がる。無言で見上げると「アイス食べるでしょ?」と笑う。あ、そうだった、と立ち上がろうとしたら「座ってていいよ」と四ノ宮。  なんとなく、浮かせた腰をまた下ろして、二号を抱き締めなおす。  ぽふ、とやわらかい頭に顎をのせて、きもちいいなぁ、とほっこりしていると。 「……すげー、可愛いんだけど……」  なんて、笑いながら、アイスを差し出されて顔を上げる。 「可愛いって?」 「二人がね。あ、アイス、どっちがいい?」  二人って……オレと二号? 二人って……。苦笑が浮かぶ。 「アイス、四ノ宮はどっちがいいの?」 「オレどっちでも。じゃ、奏斗がどっちも食べて、好きな方にしていいよ」  言いながらチョコミントアイスの蓋を開けて、スプーンですくう。 「はい」  スプーンを差し出されて躊躇うけど、なんかもう今更な気もして、口を開けると、ぱくっと食べさせられる。ふわ、と甘くて爽やかな味。 「うまー……」  言うと、ふ、と笑んで、「これ持ってて」と言われたので。二号を隣に座らせてから、受け取った。目の前でもう一つのアイスを開けて、「こっちも」と差し出されて、食べる。 「ん。あ、オレンジ、おいし……」  あ、なんか幸せかも。  思いながら言ったら、四ノ宮はクスクス笑いながら、「どっち?」と聞いてくる。 「四ノ宮も食べてよ」 「オレはいーのに」  言いながらも、四ノ宮も両方を口にした。……オレが食べさせたんじゃなくて、もちろん、自分で食べたけど。 「どっちが美味しかった?」 「……ミントかな」 「じゃあ、オレンジにする」  オレが持ってたチョコミントと、四ノ宮のを交換こして、座った四ノ宮と、食べ始める。 「さっき、二号に顎乗せてたよね、奏斗」 「うん、まあ」 「なんか笑えた、二人で」 「だから、二人って……人なの、これ」  苦笑いしながら、隣に座らせた二号を見る。 「顎乗せると、感触が気持ちいいんだよね……」 「――――……」  何も言わず、ニヤニヤ笑って、四ノ宮はオレを見てる。 「何だよ?」 「なんとなく、買ってよかった、と思って」 「そう? ……すごい場所取ってる気がするけどね。四ノ宮んちで」 「まあ。葛城が今度来たら、絶対びっくりするだろうけど」  はは、と可笑しそうに笑って、四ノ宮が二号に視線を向ける。

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