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第327話「わかんない」*奏斗

 アイスを食べ終えて、コーヒーを飲んでると、ふと四ノ宮がオレを見つめた。 「そういえば、奏斗さ」 「うん?」 「オレンジの方が食べたかった?」 「ん? あ、うん。食べたら、なんとなくオレンジ気分だった」 「はは。そうだと思った」  クスクス笑って、四ノ宮が言う。「ん?」と聞き返すと、四ノ宮は可笑しそうに瞳を緩める。 「おいしーて、ほんと嬉しそうだったから。分かりやすいよね」 「……え、でもチョコミントも美味しかったけど」 「そうなんだろうけど。オレンジ食べた時の方が、幸せそうだった」  そう言われてみると、オレンジおいしー幸せーて思った自分がよみがえる。 「……だから、四ノ宮はミント、って言ったの?」 「ん。オレ、本当にどっちでも良かったから」  むむ。  ……なんかこう、操られたみたいで、ちょっと嫌……なんて思っていると。 「奏斗が美味しいって顔してんのさ」 「……」 「なんか……」 「………… なに?」  楽しそうに言い始めたくせに、「なんか」の後、ずっと止まってる。何を言うつもりなのかと、ただ待っていると。 「……何だろね。なんていうか……」 「うん」 「……んー……。なんか、オレも幸せになるって言うか……」 「――――……」 「何て言ったらいいか分かんないけど、そんな感じ」 「……何言ってんの、ほんとに」  もう真剣にそう思って漏らした言葉に、四ノ宮は苦笑い。 「絶対そう言うだろうから言葉選ぼうと思ったんだけど。なんか他に浮かばなかった」 「――――……」  ……ほんと。  四ノ宮の言うことは予想外なことが多くて。いつも返事に困る。 「四ノ宮のさ、そういうの……」 「ん?」 「……普通は彼女とかに言うもの、だと思うんだけど」  ほんと、変な奴。  ……そう思いながら言うと、四ノ宮は、んー……と考えてから。 「別に、彼女とは限らないでしょ」 「……」 「……大事だから思うんだと思うし」 「――――……」  ……よく恥ずかしくないなぁ。  としか浮かばない。もうなんか、ほんとになんて答えればいいのか、全然分からない。    オレは二号を持って、抱き締めてつぶした。 「あのさ、奏斗」 「もう何も言わなくていいよ」 「……何で?」  四ノ宮は面白そうにオレを見つめる。 「答えに困るから」 「――――……はいはい。分かりました。片付けてきちゃうね」  笑みを含んだ声でそう言って、立ち上がる四ノ宮につられて立とうとすると、「二号抱いてていいよ」と笑いながら離れていった。  こういう、ほいほい動くとこ。なんとなく弟っぽいなーと思ってたけど。今日瑠美さんに会って、なんか……色々な意味で強烈で、なんかますます納得。柔らかいのに、なんだか逆らい難い感じがしたもんなあ……。  そんなに時間もかからず、食器を片付けてきた四ノ宮は、二号を潰してるオレを見て笑いながら、また隣に腰かけた。手にスマホを持っている。 「写真撮っていい?」 「は? やだ」 「なんかすげー可愛いんだよね、撮っていいでしょ?」 「撮って何すんだよ」 「……眺める?」 「やだ、絶対。意味分かんない。絶対無理、絶対ヤダ。二号だけ撮れよ、可愛いから」  断固拒否してると、四ノ宮は、あは、と笑いだして、「面白いよね、奏斗」と言いながら、肩を震わせている。 「二号ってオレに似てるんでしよ? 可愛いの?」 「……そう言われると躊躇うんだけど……似てる部分と、可愛い部分は別かな。トータルで可愛いけど」 「何それ」    またクックッと笑いながら、四ノ宮はオレを見る。 「撮らせてよ」 「やだよ。あの写真だけでも結構恥ずかしいのに」  言いながら、オレの視線が向いた方を四ノ宮の視線も追う。 「アレ飾るのやめない?……ってお前んちだから勝手なんだけど……あれこそ、葛城さん、変に思うよ?」  こないだの遊園地の、ジェットコースターの写真。  四ノ宮は「すげー気に入ってるから」とクスクス笑う。

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